第三話『呪縛からの攻撃』・「禍を、引き起、こす者」

 人通りのない道路の向こう、

 烏の影カラスが飛ぶように接近してくる。


 どっちが来る。


 打ち合わせはした。

 俺がフギンを討つ。

 ヘラクレス兎羽歌ちゃんがムニンを。

 やはり心理的な影響は無視しない。


 フギンの動きが速い。

 彼女のほうに。


 敵が交差した場合の対応も決めた。

 この距離なら一呼吸で飛び込める、

 彼女の前に。

 イメージしろ、


 盾の防御シールズを――


 


左手レフトを散開し十指ダブルで強化スパイクを生成』


 ギンギンギンと弾く音がした。

 連打を食らってる、

 が防いでる。

 ヤツの手足のスーツ表面が破れてるのも見えた。

 効果は出てる。


「おれらの猿真似かッ狼のくせしてよォ!」


 攻撃を受けながら別の気配を感じた。

 当然だ、ムニンも仕掛けてくる。

 

 背中から強風を感じた。

 白い巨体が前に踊り出て、


 剛腕の鉄線の一撃マイティスパイン


 ドゴンと衝撃音がしてムニンが吹き飛んだ。

 その勢いで飛び込むように四足巨体バレットに変身しながら彼女が駆けていく。

 よし。

 これでフギンの相手は俺だ。


 反転攻勢、突きと蹴りを繰り出した。


「シールズ」


 攻撃を続けたら突起で防がれる。いや手足がやられる。

 体を抑制して素早く身を引いた。


「下等な狼が、ヒーローにはなれたか?」


 盾の間からヤツが言ってきた。


「なるんだよ今からお前を倒してッ!」


 ベルトから板を抜き、

 盾の間の顔を狙った。

 当たるとは思ってない。

 牽制。

 ヤツが防御体勢の間、

 両手に狼の爪を装着。

 さらに、

 腰に下げたをチェックした。狼の爪で。

 金属同士が当たるかすかな音。

 いけるのか。

 


 ヤツの周囲を狼のように回りながら距離をつめる。

 前回戦った時とスーツも違うんだ。

 勝機はある。

 決意して狼の爪で二本の銀色のを掴んだ。

 狼の爪の凹凸が持ち手の凹凸とカチッとハマる。

 グリップと手が一体になった感覚。

 そのまま振るとスティックの先が一気に伸びてカチンと固定された。


 Ver.バージョン3は武器の追加。

 既製品の特殊警棒を独自に改造したこの――


 踏み込んで二本の警棒を打ち込んだ。

 ヤツは防御体勢のまま、

 金属音が鳴る。

 防がれて効果はない。

 だが、

 タイミングはくる。


「プロメテウスッ!」


 激しく打ちまくる。


両手ダブルをスティックに集中』


 狼の爪に似てスーツの延長となった警棒の材質も強化される。

 叫びながら打ち続けた。

 ギンギンギンという音で盾の突起がへこみだした。

 俺の体力には限界がある。

 攻撃は続かない。

 だからこそ。


 盾の突起シールズは損傷すれば劣化もする。

 ならヤツはタイミングを見計らって突起を引っ込める。

 タイミングは俺の攻撃が止む時。

 しかも次に出してくるのは、


「ソーズ」


 防御の分は警棒に回してある。

 今はスーツの材質のみ。

 だがスーツだけには頼れない。

 ギリギリの距離で黒い剣をよけた。

 複数の剣全部を避けるのは不可能でスーツに刺さる。

 痛みを感じると同時にいなした。

 避けた流れで警棒を逆手に持ち、

 狙いは、

 ヤツのスーツで唯一露出してる部分。


 口だ!


 刺すように突っ込む。

 もう一本の警棒も。


 グリップの底にある突起を押す。


 Ver.3はもうセックタイプダブルハンドじゃない。


 今はVer.3トールハンマーサンダーボルトだ。


 仕込んだスタンガンから電気が流れる、


セック細胞スプリットで電力を補助します』


 瞬間にスパークが散った。

 変質で強化されたスタンガンの効果か。

 ヤツの口から直接流し込む。

 これしかないと見抜いた。

 フギンの動きが止まる。

 饒舌さも。

 効いてる!



 ムニンのかけ声がして飛びのいた。

 フローでなければ反応できなかった。黒い物体が飛んでくるのを。

 複数の黒く太い針のような矢が目の前を通った。


 遠距離技もあるのか!


 ヘラクレスとの応酬の隙に狙われた。

 多分もう口への攻撃は通じない。


「バレット!」


 彼女が瞬時にバレットとなり、

 剣の技ソーズに似た矢の技アローズの構えのムニンに体をぶつけた。

 呼びかけに応えて流れるように駆けてくる。

 特殊警棒をベルトに戻して駆けてくるバレットに飛び乗るつもりだった。


「やってくれやがったなクソ生活保護野郎がウールヴヘジンッ」


 ヤツが構えた、


「おれらの新たな技!」


 ムニンも、


「アローズ」「アローズッ」


 黒い針が飛んでくる。

 避ける動作は考えるな!


「防御しろッ」


 先に飛び込んできたバレットが狼人間ヘラクレスモードに変わる。

 なぜ。

 すぐわかった。

 スーツの後ろ首から赤いマントを。


 マントをひるがえし、

 広げた赤い布が矢を止めた。


 そうか羽衣クロスで強化された。

 彼女にとっての盾の技かシールズ


 それでも何本か衝撃は受けたがダメージは軽い。

 今は彼女の背中。

 こんな時にもバレットは背中の体毛をスパインでグリップにしてくれる。

 このまま走るのか、ヤツらの遠距離攻撃が届かない距離まで。


「止まってくれっ」


 彼女が止まってくれた。

 俺は特殊警棒を抜いた。


「逃げずに戦おう」

『了解』


 彼女が走りだした。

 俺は投げる!


 底の突起を押してから投げた。


 くそッ。

 矢を撃たれて弾かれた。

 まだもう一本ある。


 けどヤツらの様子が変だ。


「御大将ッ狼の群れウルフパックをヤる時間を!」

「おにぃ! 消えかけてるッ」

「チクショッもういい! ムニン最後にぶちかましてやるぞッ」


 ムニンがうなずいた。

 なにか来る。

 ヤツらが空中へ、

 浮いたまま。

 ホバリングか!

 今しかないッ。


 警棒を投げた。


『E・M・Pッ!!』


 宙に浮いたまま叫んだヤツらから、

 羽ばたきのような空気の振動が起きた。

 同時に投げた警棒がヤツらの前の空中でスパークした。

 それでも衝撃波みたいな感覚が広がり、

 目が見えなくなった。

 違う。

 周囲の灯りが全部消えたんだ。

 ここだけじゃない、街から光が消えた。

 さっきのは電磁パルス攻撃か。


「ああ御大将ォ」

「おにぃちゃぁん」

「もう一度チャンスをォ」

「うちらはぁ」


 バレットから降りた。

 地面の感覚はある。

 目が闇に慣れてきた。


 誰か来る。

 真っ暗い中でも輪郭が浮くみたいに。


 白いウェットスーツを着た、

 仮面の男。


 両脇に二匹の狼を連れて。

 歩いてくる。

 匂いも。


 レイヴンズは?

 ヤツらがいた空中、

 代わりになにかがいる。

 黒い鳥。

 カラスか。

 二匹の。

 そして二匹の烏の姿カラスがまだ溶けるように、

 黒い水みたいに、

 もっと分解された粒子みたいに、

 川の流れに似て動いていく。

 川の先にいるのが、


 白い男。


「ご苦労。お前たちは役目を終えた。人の形はもう必要ない。戻れ」


『ギグガガガ』『グギギギギ』


 生き物の声だったが、機械の駆動音にも聞こえた不気味な音のあと。

 黒い流れが金の川に変わり、

 暗闇でもハッキリとした輪郭に。


 男は両腕を前に掲げて構えていた。


 ピキピキピキ、

 カチカチカチ、


 金属が歪み打たれ形作られるような音を響かせながら、

 男の両手が金色に染まっていく。

 いや黄金のなにかをまとってる。


 完全に音がしなくなった。


 白い男はを着けていた。


 話しかけてくる。


「今回も素晴らしい戦いを見せてもらった。だがレイヴンズは少々やりすぎたな。街は混乱して後始末が増えてしまった」


 苦笑してる。


「アンタなんなんだ!」

『禍を、引き起、こす者』


 バレットのまま兎羽歌ちゃんがつぶやいた。


「たしかにとも呼ばれるが、今夜はこれまでだ。今度再び話そう。帰るぞ、ゲリ、フレキ」


 男は向きを変えて帰ろうとした。

 でも二匹の狼は駆けてくる。

 バレットが気になるのか?


「ゲリッ! フレキッ!」


 男が怒鳴ると二匹が体を震わせた。

 戻っていく。


「馴れ合うんじゃないと言ったろう」


 狼の姿が点滅しながらにじんでいく。

 色も変わっていき、

 また川みたいに、

 金色で、

 男の、


 


 男はを履いていた。


「三度目はないと思え」


 足の裏を地面にガンガンと叩きつけてから、暗闇に溶けながらいなくなった。

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