第二話『復活の呪文』・「パソコンはここでいい?」

「トワちゃんパソコンはここでいい?」

「うんありがとう」

「大体片付いたぁ」

「荷物は少なくしたから残りは自分で少しずつ持ってくるね」

「了解。さあ座って」

「ふふっ。フラちゃんそうやって座布団叩くの癖だね」

「えーだって隣でくっついて話したいじゃん」

「くっついて……」

「トワちゃんどかした?」

「ううん、なんでもない」

「もしかしてー。しなくてもナオヤか」

「なんで? ……うん」


 ビックリして頭をぶつけそうになった。

 覗いちゃいけないが二人でなにを話してるのか気になって抜け出せない。

 着替えや裸を覗いてるんじゃないから。聞こえてくるだけだから。もし見えそうになったらすぐやめれば。


「トワちゃん。ラブホでだよね」

「どうしてそれ」

「だってわたしもいたもん」

「あ、そっか。そうか」

「二人がなにもなくてわたしはよかったぁ。ナオヤとデートもできたし」

「デートしたの?」

「うん。トワちゃんとラブラブラブホを見逃してあげたから次はわたしとって」

「ラブラブって。あの時は逃げ込んだ先がラブホテルだっただけだよ。私は別に下心は……。フラちゃんが気にしなくてもいいのに」

「トワちゃんってさホンット……。まあ複雑なんだね。いいけどっ。ていうかナオヤとトワちゃん付き合ってるんだよね」

「あっ。そうでした……」

「別れたの?」

「ううん。ほんとは私が勝手に言っただけ。喫茶店の時は直也さんを助けたくて」

「知ってたよ。あとからだけど」

「いつ?」

「喫茶店では知らなかったっ。プロメテウスになるとセックがくれる情報がビビっと入ってくるの」

「そっか。フラちゃんやっぱり師匠に似てる。いじわる」

「へっへー。ほめられてるのかな、けなされてるのかな」

「知らない。こうしてやるっ」

「えっ、トワちゃんちょとやっ、どこ触ってるのーーナオヤにもまだ触らせたことないのにっ」

「デートどんなことしたのっ教えなさい!」

「くすぐっ、あぁんもーっ」


 じゃれ合いはヤバいんじゃないか。もう退散したほうが。


「わかったわかったぁ! 散歩してツイストゲームして手も繋いだっ」

「ツイ……と手を」

「手はトワちゃんもしたでしょ」

「でも私のはデートじゃないから」

「ならわたしが一歩リードね」

「ツイストゲーム。私もやってみたい」

「ナオヤにお願いすればいい。あの人トワちゃんの頼みならなんでも聞くよ。お金はないからお金以外ね」


 えらく言われてるじゃないか。


「そうかな。お金は知ってるしそんなお願いはしません」

「トワちゃんはわがままになれないんだね。ナオヤはトワちゃんを大事に思ってるから断れないのに」

「断れないのは相棒だから。私だって直也さんにそうだし。困らせたくもない」

「そうだけど弱点につけこまなきゃ勝てないよー」

「フラちゃんわたしは、」

「はいはいはい。トワちゃんどんな人が好きなタイプなの?」


 夢がある人。


「狼が好きな人」

「意味深だねぇ」

「フラちゃんは?」

「ナオヤ」

「好きなタイプが?」

「うん。死ぬほど大好きだもん」

「……そっか」

「死んでもいいぐらい。だけど死ななくてもいいならずっと一緒にいたい」


 胸がつまって押し入れの中なのに横になってしまった。


「私もそんなふうに思えたらいいな」

「トワちゃんはないの」

「デートとか一緒にいるだけでいいのはあるけど、私にはわからない。自分のことあまりわからないから」

「知ってる。前のわたしと似てるから。だからトワちゃんがなんでナオヤと一緒にいたいかわかるよ」


 フライヤの言葉は薄々感じてた俺の胸の中を鮮明にした。


「トワちゃんはナオヤに導いてほしいんだね」


 感じてても考えてはなかった。


「フラちゃんは鋭いね……そうかもしれない」

「だってわたしもヒーローだもん」


 彼女と一緒に、いや彼女こそヒーローになってほしいとずっと心で感じてた。彼女がヒーローになれば俺もなれるんじゃないかって。

 そんな資格はないかもしれないけど、俺は彼女を導きたいんだろうか。


「あっトワちゃん待っててね」


 ドタバタガタガタと音がした。


「セックから頼まれてたっ。はいこれ」

「スーツと、マスク」

「前のはフードとマントを取ってたから出し入れできるようにしたって。ナオヤのがトワカスーツで、それからヘラクレススーツだから、これはヘラクレススーツ改」

「マスクも?」

「うん、羽衣を入れたって。顔の大きさが変わっても着けられるみたい。防御力もアップ」

「ありがとフラちゃん。師匠にもお礼言わなきゃ」


 最後に話した師匠セックはお礼のためにしてる印象じゃなかった。弟子のためって理由でもない。

 彼女の目的。

 それは宿敵を倒すこと。


「セックにはほんとはお礼なんていらないよ。彼女はお礼で心が動くような性格じゃないし好きでやってるんだから。それに次の戦いにはセックは参加しないって」


 マジか。


「弟子の実戦経験が大事だとか。トワちゃんとわたしとナオヤだけでレイヴンズとの戦いに勝たなくちゃ」

「うん、了解」

「ナオヤも言ってたよ。『俺たちはチームウルフだ』って!」

「チームウルフ。そっか、頑張る!」

「頑張ろ!」


 言ってないっ。心の中でつぶやいたのを聞かれてた。


「わたしたちこの先どうなるかもわからないんだから。セックでもわからないって伝わるぐらい。だから自分たちでする」

「そうだね」

「トワちゃんも心残りがないようにしなくちゃダメだよ」

「うん。最近はパソコンで日記もつけだしたよ」

「へぇー、読みたいな。覗こうかな」

「読んじゃダメ。覗いたら絶交。チームウルフも解散!」

「うわーわたしの弱点突かれたー」

「ふふ」

「うふ。覗くっていえば」

「うん?」


 ドキっとした。フライヤと目があったような。


「フギンってやつの顔。トワちゃんの元カレ?」

「違うよーっ。高校時代に仲がよかった子。気にはなってたけど高野たかのくんはクラスメイト以上親友未満って感じかな」

「きっと高野さんはトワちゃんのこと好きだったね。佐藤さんみたいに」

「そうだったのかな……」


 俺はゆみちゃんの話をしたし高野くんの話はなんとなく気になってた。

 けどまさか、フライヤは俺が覗いてるとわかってて、

 聞かせてる?


「聞いたナオヤー! 元カレじゃないって!」

「なに、フラちゃん?」


 ドタドタっと音がした。


「ほらーここ見て。穴があるでしょ」

「ほんとだ」


 バレた。


「ナオヤっ、観念しなさいっ」

「いつから聞かれてたのかな……」


 たまらずに声をあげた。


「た、高野くんの話からっ!」


 どうか嘘がバレませんように。






 *



 俺たちもう臨戦体勢だ。

 兄妹が舐めてかかってきてもチーム・ウルフは全力で迎え撃つ。


「今夜は糞女が来てねえなァ。だからって手は抜かねえッ! いくぞムニンッ」

「クロウズ」

「クローズッ」


 ヤツらも最初から本気みたいだ。

 俺もフローで匂いを遮断した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る