第四話『恋する者のサガ』・「勝利のギフト!」

「あんやだナオヤちょい待って」


 勝負前のいい緊張感が可愛い声で吹き飛んだ。なによとフライヤを見てたら髪を結びだした。

 そっか邪魔になるから。

 ポニーテールにする気か。

 下ろしてた髪型も可愛かったけど、髪を上げてると端正な顔立ちが目立つからもっと美女だ。

 結び終えたな。


「も少し待ってくれる?」

「どうぞ」


 ストレッチしだした。


「よっ」


 彼女セックを初めて目にした時みたいだ。


「ほっ」


 もうとっくに秋なのに褐色のフライヤの雰囲気はまだ夏っぽい。夏の妖精って感じかな正体的にも。


「んー」


 ヨガみたいな動きで呼吸もいい。


「ハ~」


 離れて眺めてると腕や脚がスラッとしてるからまるでどっかのモデルさん。

 モデル。

 フライヤより手足が長いムニンを思い出した。

 俺好みの顔で人を蔑む黒い目さげすむ様も。

 好みの顔がなんだよ外見に惑わされてたら全然ダメだ。

 外見って意味ではフライヤも。まあ彼女はいい意味で。

 このツイストゲームでのフライヤの才能もどれほどか。対鳥人間レイヴンズとの前哨戦や練習台になってくれるかも。

 それで師匠がもしやデートの後押しを? さすがに考えすぎだな。


 ゲームツイストのルールは簡単だった。


「じゃんっけん――」


 彼女が勝ったから俺が指示される側。

 マットの『黄色の●』『灰色の○』『青色の●』どれだ。


「じゃあ青色に」


 彼女の右側の目と同じ色か。

 次は右手か左手か右足か左足のどれかを指示される。


「右手をおいて」


 右手を青の●へ。

 彼女のそばにある『黄の●』『灰の○』『青の●』を見ながら俺が指示する番。


「黄色に右手を」


 左側の目の色だ。

 これで二人とも似た姿勢になった。

 お互いに指示を続けていって手足が離れたり倒れたら負け。

 彼女は自信満々の笑みを浮かべてる。

 どうも小憎らしいから表情と体勢を崩してやりたくなる。


「次は灰色に、左足をおいて」

「青色に左手を」

「じゃ黄色に右足~」

「灰色へ右足を」

「なら灰色に左手ね」

「青へ左足」


 二人とも手足が全部マットの上に乗った。実質今から本番。

 もう変な体勢で結構キツい。ツイストは体幹のトレーニングにもいいんだな。

 変な体勢はフライヤもで、男の俺が見てたらまずいポーズになってる気が。

 まあ彼女が提案したゲームだから体勢は気にしない。


 指示が進むと体の余裕がどんどんなくなっていった。対戦相手フライヤとの距離も自然に近づいた。


 次は俺か。


「青に右足」

「はぁい」

「痛った」


 青の●に置いてる右手を踏まれた。

 ルールでは手足が置かれてる所に二重で置く行為はできないはず。

 手の甲で褐色の素足と重みを感じる。


「のっのけてっ」

「あんっごめんね。ふふ」


 笑った。こいつ笑ったな。

 わざとか、わざとやったのか。

 少しルール違反して相手の心理を揺さぶる作戦か。

 そうやって足の指先で名残惜しそうに触れながらゆっくり離す、って色気がある妙なタッチにも惑わされない。

 ドジみたいに笑ってごまかしても俺は騙せないぞ。




 今では密着しそうな近さになった。

 吐息みたいな囁き指示が届く。


「んっ。右手動かして」


 置いてからふと顔をあげてみたら。

 フライヤの胸が。

 顔に触れるぐらいの距離。

 少し揺れてる胸から鼓動も聞こえそうで、息をかける前に顔を反対に向けた。

 痴漢じゃない俺は恥ずかしいのにフライヤはこれ恥ずかしくないのかな。そもそも俺のことが好きなら今の体勢は美味しい状況なのか。

 けどゲームとはいえ勝負で俺は真剣だ。


『ふふ』


 笑われたのがよぎってちょっとイラっとした。

 向こうが先にルール違反したんだからこっちもラフプレイでお返ししてやる。

 体を微妙に揺らして少し勢いをつけて肩を彼女の体にこう、軽く当てるっ。


「きゃっ」


 フライヤの体勢が崩れる。

 俺の勝ちだ!


 って肩掴まれ――

 変な体勢で倒れる!


 倒れそうな彼女のうなじが見えた。

 綺麗。

 兎羽歌ちゃんのうなじもよぎった、


 瞬間に彼女と体を入れ替えた俺が背中から倒れた。

 なにが起こった。でもすぐに自分で神技だったと感心した。


「ナオヤ大丈夫っ?」「フライヤ大丈夫か」


 同時だったから笑うのも同時だった。可笑しい。


「俺は平気」

「よかったぁ」


 下から見る笑顔も可愛いもんだな。

 笑顔を見ながら謝りたかった。


「ごめん。わざと肩を当てたから」

「だよねぇもぉー」


 ふくれっ面もなかなか。


「ごめんね」

「うん許す。だってわたしも手を踏んじゃったから」

「あれがわざとっぽくてさ」

「うん……わざとだもん」


 わかってたのに胸が苦しくなる。


「ナオヤの手に触れたいと思っちゃったから」


 そうか。そうだよな。


「ナオヤは許してくれる?」

「ああ。仕方ないから許す」


 また同時に軽く笑った。

 よりにもよって足でとか手を乗せればよかったとか言い合いながら。


 話してたら真上から覗き込む黄と青の瞳オッドアイの目頭が光っていた。

 プラネタリウムみたいだ。

 黄色太陽青色地球

 間にある光る星。


 星が落ちてきた。

 流れ星じゃない。

 彼女から零れた涙こぼれた


「腕疲れちゃった。ナオヤの胸で寝たい」

「来ていいよ」


 フライヤが髪をほどいた。

 そのまま頭を預けてきて彼女の体の重みと体温が伝わった。


「ナオヤの心臓の音が聞こえるね」


 鏡の前で感じた背中の温かさによく似てる。


「ナオヤは優しい」

「そうかな。優しくできてるのかな」

「優しいよ。だから残酷」


 なにも言えなくなった。なにもかもが残酷なだけとも言えなかった。

 フライヤは俺のことが好きなのに今の俺は応えられそうにない。

 ならせめて彼女を優しく抱きしめて髪をゆっくり撫でてあげた。


「ナオヤ。すごく好きだよ」


 優しい声ウィスパーが耳に届いた。


「わかってる」

「わたしの胸の中ね、とても痛いの」


 胸の奥で痛み共鳴を感じる。


「それでもナオヤと。ずっとこうしてたい」


 きっとヒーローは、どこかで痛みも必要になる。

 黙ったまま共鳴痛みを感じる責任があると俺は思った。




 彼女フライヤと安らかに過ごせるのも最後かもしれない。

 師匠セックはああ言ってたがいつ殺されるかわからない。殺されなくても奴隷のように人生を奪われてるかもしれない。

 だからこそヤツらを撃破すれば。現状を打破できれば、目指す先がまた見えてくると信じてる。

 今の俺はまだ弱い。ヒーローになれたその時は彼女にもちゃんと応えられる俺になれるだろうか。







ゲームツイストは俺とフライヤどっちが勝ったんだっけ。肩を掴まれたからフライヤが先に手を離した。その時点で負けだけど俺がルール違反したからだし。フライヤもルール違反してたしで」

「ナオヤ~。女の子とゲームする時は真剣に熱くなっちゃダメっ。モテなくなるよ」


 目の前でぺたんと女の子座りしてるフライヤに怒られてる。


「ナオヤはモテなくてもいいけどねっ」


 舌をぺろっと出して今度はニコニコしてる。


「まあいっか。じゃフライヤの勝ちで」


 言ってからニコニコし返した。


「きゃー嬉しいな~。あっそうだ! セックから渡されたものがあるっ」


 彼女が立ち上がってまた押し入れに。

 でまたお尻が。

 坊さんみたいに黙想して待ってよう。


「起きてナオヤっ。ゲームはナオヤの勝ちだから、これは勝利の贈り物ギフト!」


 青い目でウインクされた。


 渡されたのは新たな黒いスーツだった。

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