第三話『美女との対峙』・「これからなにする」
ラブホの帰り道で彼女がスーパーに連絡してくれた。佐藤さんの安否と二人が抜けて噂されてないか気にはなってたから。
彼は商品の散乱と一緒に見つかって、万引き犯になにかされて気絶してたって話になったらしい。
二人の件は俺の具合が悪くて兎羽歌ちゃんが家まで送って面倒を見たって話に。
それでも連絡が遅かったから彼女は電話で謝ってた。悪い気がして俺も彼女に謝った。
けど仕事一筋な彼女ならラブホで連絡して気にするんじゃないだろうか。これは職場を優先しなくなった、のか。
隣で歩く兎羽歌ちゃんを覗き見ても変化はうかがえなかった。
部屋に戻ったら当然みたいに
着物で。
しかもフェイスベールを着けてない素顔で。
着崩した装いで赤ワインを飲んでるから
「おかえり。とりあえず一緒に飲むか」
「ただいま。色々疲れてるので」
「そう。
突っ込む気にはなれない。
「顔も赤いし酔ってるんですか。祝杯って」
「酔ってる。己の体を酔うようにしたからだよ。キミも一度見てる、トワカでね。今夜の祝杯は
やっぱり撃退したのか。
「
「聞く前になんかかける言葉があるだろぉ」
言う必要はあると思ってたからタイミングよく気合いを入れる。
「今日は助けられました! ありがとうございます!」
「可愛い弟子、いいってことっ。まあ
素顔で飲んでるからか様子が妙に違う。気にはなったが本題を優先したかった。
俺の話を聞きながら飲んでた
「烏は
キミらの中の思考や記憶の残像でクソ野郎があの姿形を作った。
相手の親しみを利用した類感魔術って代物さ」
フギンも魔術と言ってた。アイツが大将と呼んでた人物か。
「ナオヤ。ヤツは顔を変える者、イヤールクと名乗った時もある。名と同じく今の姿も前とは違う。僕の得意分野とも似る、ヘドが出るヤツ」
「
「半ば勧誘のため、ヤツなりの招待状さ。キミらを引き入れたいんだ。クソ野郎の思い通りにはさせないけどね」
酔いが覚めたみたいに鋭い
「
ヤツの根幹は平和のための戦争を
真実の者、ヤツは
それが巧みな支配に対抗する唯一の手段。ヒーローを目指す僕のナオヤ。キミは人として立ってトワカと結束するんだ」
話を頭に入れて混ぜ合わせたら、挑むべき者をぼんやりとは感じた。
話終えた
「ナオヤ、僕のフライヤとデートするんだね」
「え。まあー流れで」
「ならいい物をあげるよ。それをフライヤに渡しておく」
「今渡してくれたら」
「バッカ、デートのお楽しみになるでしょ。キミに
「恐縮です」
「烏はしばらく現れないから気にしなくていいよ。次に現れる日も僕が知ってる。烏にも弱味はあるから対策はデート後にね。今は僕のフライヤのことだけ考えるといい」
事件が起きた昨日はスーパーの閉店後に警官が来て調べてたらしいが、今日は通常通りだ。
佐藤さんも怪我はないらしく機械みたいに働いてる。経験的に急所への攻撃が的確だからだと察した。
兎羽歌ちゃんも問題なさそうでむしろ活力に溢れてる感じ。
フライヤもスーパーになれたみたいで元気にやってる。
あの子とのデート、考えなきゃな。
俺が考えるまでもなかった。二人が休みの日にフライヤのプランがあったから。
でも彼女の望みはささやかで、まず俺と一緒に散歩がしたいと言われた。
だったらもう得意のウォーキング。
コースも特別に変えてラフな格好の彼女を連れて歩いた。
フライヤの隣で歩調を合わせると、生活保護の自分が高貴でおしゃれな存在になったみたいな気がしてきた。
アイドルとバレなくても外国人でこのスタイルだと通りすがりの人の視線も感じる。
一緒に動いてれば彼女のプロポーションのよさも前よりわかった。陽にあたってなびく黒髪も、今は白い肌や
意外だったのが俺と歩いてるフライヤは口数が少ない。
けど元気がないんじゃなく楽しんでる満足そうな顔つき。
だからだろうか。彼女の靴音が印象的で、耳に入ると心地よかった。
次のプランもささやかだったが同時に大胆だった。
「さあわたしの部屋に入って!」
「お、お邪魔します」
女の子の部屋にお呼ばれなんていつぶりか思い出せないぐらい。
「そんなに硬くならないのー。ほら座って座ってぇ」
すっかり褐色のフライヤが座布団をぽんぽん叩いてる。前にも見た。
また大人しく座った。
自分の部屋は壁を隔てたすぐ隣なのになんでこう緊張する。
不思議だったけど多分ラブホと同じ。別の世界に入ったような雰囲気の肌触り。
「トワちゃんとはよくおうちでデートしてたよね。だからわたしもしてみたかった」
「ああ、そうか。うん」
「ナオヤとこうして二人でお話したかったんだよ」
彼女がぐっと距離をつめてきて肩と肩があたった。
ラブホでの感覚が甦る。別のなにかを考えるべきだから壁を見て、押し入れの壁に空いた穴の記憶も甦った。
あの穴。
前はあんな穴はなかった。
誰かが開けたんだ。
考えられるのは二人しかいない。厳密には一人。
「ねえナオヤ」
「はいっ」
また声が上ずった。
「わたし二十歳になった」
「お、おめでとう」
「ありがと。トワちゃんがなったからだけどね」
「そっか」
「うん。ね、これからなにする」
「なにって」
二十歳だからって。
「わたしはしたいことがある」
「したいって」
やっぱり男女のアレなの。
「ちょっと待っててっ」
「え。うん」
俺がうなずく前に立ち上がった彼女は押し入れまで行くと、四つんばいになって中をごそごそ探ってる。
タイトなズボンで突き出されて揺れるお尻も見えた。
目のやり場に困る。
「あったー。ナオヤっ、これやろー!」
「おお、なんだなんだ」
彼女が物を掲げて声をあげた。
「ツイストゲーームっ!」
黄色の●、灰色の○、青色の●。
それぞれが同じ色の列として印刷されてる縦長のマット。
縦に長い両端で俺たちはガンマンみたいに向き合ってる。
ルールに沿ってグラマラスな美女との壮絶な勝負が始まる。
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