第五話『継がれゆく物』・「ニッポンのマッチョマン!」
スーツを片手にフライヤを連れて俺の部屋に戻った。手を握ったまま。
ご近所が見たら強引に女の子を連れ込んだやる気満々の男かも。
やる気が湧かないわけじゃないけどこっちには事情がある。見ただけの思い込みでは計れない。
握ってるこの手も彼女の要望。デートで手を繋ぎたい気持ちはよくわかる。
彼女の手の感触は
五つの指はそれぞれ俺の指の間に挟まってる。恋人繋ぎをしたい気持ちも受け止めた。
けど肝心なのはフライヤがスーツの説明をしてくれる話。マスクが必要で部屋へ取りにきた。
「マスクはっと」
探そうと手を放したらフライヤが悲しんだように見えた。
取ってきたら彼女が目を見開いて言ってくる。
「ナオヤさんの! スーツ着るとこ見てみたい!」
「マジ?」
猛烈に頭を縦に振られて断れない空気。今日見かけた彼女の憂いもよぎる。
まあ全裸になるわけじゃないからいっか。
「わかった。ちゃんと見ててくださいね」兎羽歌ちゃんかと自分で。
「やっったぁぁーー!」
すごい喜びよう。フライヤのほうが踊りだしそうだ。
形だけでも彼女は二十歳になったんだから、
なら今日が少しでも
見られながらも服を脱ぎ始めた。
フライヤは女の子座りでなにかの観客みたいに凝視してくる。
上は裸になったけど下は……。
今日のは見せパンみたいなボクサーパンツでよかった。
「やぁーん。ナオヤのおパンツ姿見ちゃった。けどほんとは前に一回見たっ」
介抱された時やっぱ見られてたの。
「ナオヤのカラダ~~前よりたくましくなったねぇ。筋肉ぼこぼこしててすごいもん」
「ずっと鍛えてるからね」
「触っちゃだめ?」
「お触りは禁止です」
「やだぁーー本物のストリップショーみたい~」
サービスでボディビルのポーズもした。
「きゃーーニッポンのマッチョマン!」
今までのフライヤでは見なかったぐらい嬉しそう。
新スーツの着心地は抜群だった。
このフィット感はマスクとも似てなにも着てないような感覚に近い。
むしろ普段の服や裸より体を動かしやすくなった気がする。
ショーが終わるとフライヤがやっぱり座布団の上をぽんぽん叩いた。
「スーツは『ウルフボディ』が名前だってセックが言ってた。じゃあナオヤ。ウルフヘッド被ろう」
マスクを被ろうとしてたら、
「なるだけわたしを見ててほしいな」
つぶやいたフライヤが目をつむった。
『プロメテウスを起動しました。予定されたスーツの説明を
彼女は安らかな表情で女の子座りのまま動かない。
『元のスーツでのセックの依頼が完了しています』
精神が移るとこうなるんだろうか。
『小人が
小人って人物を聞くのは今回で三度目。何者なんだ。
『
そうなのか。了解。
『以下が材料です。
柔軟で強度の高いアルミをケブラーで真空パックした
超高分子量ポリエチレン・ナノファイバー。
新規投入された
俺の手製とはもう大違いで防御力がかなり高まってる感じだ。
師匠も右手を入れたと言ってたな。
『ウルフヘッドとウルフボディの連結により、
スーツが
これでウェアウルフスーツVer.2か。しかもダブルハンド。
師匠に大事なところを握られてるようで純粋には喜べないな。
『Verアップで防寒防暑機能も備わりました。臨戦の際は体温を感知して熱循環が稼働します。
疑似擬態ってなんだ。
『
あれかっ。じゃ兎羽歌ちゃんの新スーツにも
今後は服の下に着込んでればいいのか。
この着心地だからどうりで兎羽歌ちゃんも違和感がなかったわけだ。
ちょっと待てよ。
ならさっきも服やズボンを脱がなくてもよかったんじゃないか。
上からスーツを着れば疑似擬態を使うと普段の服装にもなるはず。
「ナオヤっ!」
いつの間にかプロメテウスの反応がなくなった代わりにフライヤが飛びついてきた。
「やっぱりかっこいーねぇー」
抱きつかれてマスクに顔をすりすりとこすりつけられてる。
着てる状態なのに感覚的には着てないような肌触りだから、裸の時に抱きつかれてるみたいですごく変な気がしてきた。
「フライヤちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「なになにっ」
少し離れてくれた。
プロメテウスに聞けなかった疑問をぶつける。
「もしかしてフライヤの眼帯も
羽衣で思い出したんだ。
クラブで
その時には見過ごしてた。
「そだよ。今は服の一部になってるけどね」
やっぱりそうか。
「見せてあげる」
「頼む」
フライヤが
右手の袖から布地が移動したように見えた。
彼女が右手を離すと、ほらもう眼帯を着けてるじゃないか。
「じゃじゃーん。眼帯フラちゃんでっす」
久々に眼帯のフライヤを見た気がする。
「眼帯はわたしってバレちゃうからね。もう着けないようにしてる」
「そうだよな」
またフライヤが右手で眼帯を覆うと元の黄色い目に戻ったから聞いた。
「プロメテウスでの説明はもう終わりなのかな」
「えとね。難しい話はプロメテウスじゃないとできなかったけど、そうじゃない話はフライヤに戻ってナオヤと直接お話したいの」
「いいよ」
笑顔で応えた。
「セックからの伝言なんだけどね。対策って話で『烏の視野は三百度以上で背後から近寄っても丸見えだから気をつけろ』だって。それに『ヤツらの本質は人間じゃないから姿が人間でも人として見るな』とも言ってた」
「わかった」
「それからこれが一番大事。セックが『来週の水曜日にヤツらが再び現れる』だって」
伝言を聞いた俺は自然に呼吸法を使っていた。
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