第三話『カットガール』・「可愛がってやるがいい」
イラだちを隠せない。
「どこに。フライヤ、返事してくれ!」
薄暗いし気配も感じない。
「ナオヤ君。人間には様々な顔がある」
静かな声が耳に入る。
「この地に足を踏み入る前、彼女と約束した。北の国々で、
「なんなんだ約束約束って」
「生まれてくる。それが必要だった」
我慢して聞くしかない。
「フライヤ・ハスは美貌と恵まれた体、明るい性格で道のりを照らしてくれた。彼女は人の注目を浴び、人から見つけられる者となった」
「同時に彼女が目的の者を見つけやすくなった。気づいてるだろうが目的の者とは
「フライヤは
「キミのせいで約束も少しずつ変わった。一番は
呼吸を続けろ。
「キミを引き上げるために死んでもらった。現場で鉢合わせたのもキミのせいじゃない。落ち込むなよ、彼女は生きてる」
「なんでフライヤは生き――」
「最後まで聞きな。約束を果たさせろ」
俺が黙ったから話も続いた。
「こう考えればいい。フライヤは可憐な姫。
「彼女は役割を果たした。
「冴えない顔してるね。喜べよ、キミは前より強くなった。前向きな努力は報われてる」
けど俺は、
「救えなかったと考えてるな。アイドルの彼女は死んだが、お隣さんの彼女は生きてる。キミが救ったのよ。もうわかってるんだろ」
「
やっぱりか。
「そう。彼女の精神がプロメテウスの中核になる。あたしが
黄と青の目がいつものイタズラっぽい形になった。
「
俺は大事な呼吸を忘れなかった。
してなかったら取り乱してる。
「彼女の体と人格と人生を産んだ。あたしにはできる。
もう無意識でフローの導入部に入れる気さえする。
「あたしの力は残念ながら制限されてる。事情があってね。今は事情を話す気もない。好まずともあたしが精密に産める者は一人分だけ」
「自分の道のりを行くために彼女から自由を奪った。人生を産んでも人生は与えてない。故に約束が活きる。役割を果たせば自由を与える約束」
「記憶は操作した。たまに心もね。当時の彼女は役割や約束を自覚してない。キミが彼女を責めるのはお門違いで、責めるやつじゃないのも知ってる。生い立ちを知れば余計に可哀想な子なのよ。察してるだろうが、彼女の生まれは人間とは異なる」
「そしてあたしのフライヤが
あたしの
「さあ続く場面を見せよう。作られた者がどう作られるか。
ふっと
「儀礼的なのは嫌い。さてとナオヤ君が見るのは
焼きつけろよあたしの
「ビッグ・セックは自由を重んじる者。彼女に自由を約束した者。故に束縛からも解き放とう」
言い終えた
瞬間、
見覚えのあるナニカが現れた。
手首を切断した時、
フライヤが頭を撃たれた時も、
似た光景を垣間見て、
合致した。
――
彼女の全身が
脈動するナニカに、
変わり果てた。
銀を混ぜた水のような、
異様な光景もすぐ終わって、
立ってたのは、
昼間の姿のフライヤだった。
「ナオヤわたしね――」
なんで服まで変わった。
細かい考えが駆け回る。
「服が。どうして」
「あ、服の説明すればいいね。ナオヤのスーツと仕組みは同じ。服にセックの細胞がかなり入ってるんだよ。彼女の意思で変わる。昔から時間をかけて
それで――
マスクフェスで
戦った時の
兎羽歌ちゃんがマネージャーを見て反応したのも。
性質を感じたのか。
そうだよ
直前に
さっき
色々なことが納得いく。
思い返せば、
「わたしも今は力の一部を許されてる。服装も少し変えられるよ」
「プロメテウスになった時から」
「うん。ねえ、ナオヤは前のわたしのほうが好き?」
「ああ、それは、いや」
「よかったぁ。だけどね、肌の色ならこうやって――」
彼女が左手で右手の先から体をなでていく。
指に沿って肌が褐色に染まっていった。
「元のわたしに戻れるよ。けどアイドルはもういらないから。わたし失踪しちゃった。肌を変えたのは他の人にバレないように。ナオヤの前ならこの姿でいられる。ややこしくてごめんね」
驚くよりも冷静に別の疑問を感じていた。
俺の推測が正しいなら、
「眼帯を。外してほしい」
「そっか。うん、見せるね」
フライヤが黒い眼帯を外し、
右手で前髪をかき上げた。
思った通り、
「セックやヘラクレスと同じ瞳」
「うん。わたしはセックだから」
薄暗い中で
「わたしがヘラクレスの秘密も教えてあげたいけど、知らないの。知ってるのはセックだけ。ごめんね」
悲しげな表情が明るくなって、
「わたし自由になった。これで普通の女の子になれた。ナオヤのおかげ。わたしを自由にしてくれたのはナオヤなんだよ。彼女が言ったまま、ナオヤはわたしの
少しだけ気が楽に。
「だからわたしは……ナオヤが好き。大好き。わたしはナオヤのために産まれてきて死んだんだ」
なにかが胸に刺さる。
「ナオヤとこれからも一緒にいたい。プロメテウスの時もナオヤをサポートできる」
「
一瞬で
「ナオヤ君、彼女はもう自由だ。自由に生きられる上でキミを選んだ」
どう解釈したら。
「彼女はキミのものだ。存分に可愛がってやるがいい。それとな一ノ瀬との関係は気にしなくてよい。ヤツの相手をしてやったのはあたしだ。彼女に似た姿の別人だったと思いなよ」
水から脱皮したみたいにフライヤが飛びついてきたから、
「トワちゃんにどう伝えるかはナオヤに任せる!」
首に腕を巻かれた勢いでダンスみたいに回りながら、
「わたしの命はナオヤにあげる。ずっと仲良くしてね」
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