心霊恐怖談で涼む
日番谷
第1話 社宅
もう、数十年前に体験した話です。
バブル期の真っ只中のことです。今は「バブル期」って、その言葉は知っていても意味合いを知る人は少ないかもしれません。
当時、まだ携帯電話が無く、また、ディスコ、マハラジャ東京、ワンレン、ボディコン等や、車の装備にはオプションでカーナビやカーオーディオが全盛だったといえばわかるかな?
今やスマホ、車ではオールインワンナビやエアバッグ、安全ブレーキシステムが当たり前になる前の話。
僕の勤めていた会社で新製品増産のため、生産設備の投資を行い、その部門を24時間フル稼働の体制を取ることにしたのです。
そこで、僕と、他同期の二人の計三人がまず先行して新しい設備の稼働習得のために別工場へ出向することになりました。
その工場は、当時勤めていた工場から車で片道一時間半位でしたが、会社は寮を用意してくれたのです。
今から思えばその“寮”がおかしなものだったのでした。
まず、一軒家。なんです。広さは5DKの二階建て。
と、いうことで社宅と言ったとこですね。
思っていたイメージは、まぁ、アパートで一人一人別の部屋というものでした。
なのに、一軒家。しかも、大きくてまだ、新しい。三人ということに対しても贅沢な待遇だと嬉しく感じたものでした。
広い庭、玄関前には砂利がひいてあり、車2台が楽々入る完全なガレージもある。
僕ら三人はここで共同生活をすることになりました。
ですが、今、思えば、玄関に入って感じた違和感、それが間違いではなかったんだなと思います。
普段、どこでもそうですが、建物に入って違和感とか僕はそんなことを感じたことが無いのですが、ここにはハッキリと嫌だなって感じを受けていたのです。その日は晴天でまだ午前10時。
僕らを受け入れてくれる担当の総務の人が部屋の窓を開けて空気の入れ換えをしてくれています。外の明るい光が家の中に差し込みます。にもかかわらず、なんかどんよりと重い感じしか受けなかったんです。他の二人はどう感じたかはわかりません。
総務の担当者はお昼頃会社に来るように言って一足先に戻りました。
そう、僕の感じたことは、これからはじまる共同生活に余計な影響を与えたく無いので誰にも言わないと考え黙っていました。
僕らは家の中をくまなく確認しました。玄関に入り靴を脱ぎすぐ左に階段、正面は奥に続く短めの廊下、右手には1つめの部屋のドア。階段は始め三段くらい左方向でそこから四段位右方向、そしてまた右方向に曲がり二階に到達するコの字型で先は奥の部屋まで廊下。なぜか二階に到達したあと廊下の途中にまるでドアがあったかのような枠組みがある。一階は畳敷きの二部屋と玄関脇に八畳ほどの洋室、唯一エアコンがついていて水色色調の部屋。子供部屋だったっぽい。それと広目のダイニングキッチン、広い脱衣部屋がある風呂、あとトイレ。ただ、畳の二部屋は十畳ほどが二つ襖で仕切られ、とても広い。
まるで昔の名作、金田一耕介名探偵のイヌガミケノイチゾクに出てくるような雰囲気。
二階は階段のぼって廊下の正面に採光窓。その廊下は左に曲がり、すぐ左に六畳の和室、その部屋を通り越して奥に八畳ほどのアイボリー色調の和室。雰囲気的には夫婦の寝室かな?と取れた。
こういった探険めいたことはワクワクするものです。が、僕は階段をのぼっている最中に何か嫌な感じを受けました。なんとなく変な感じ。この家全体が放つ“心地悪い”という嫌気。
特に二階の六畳の和室に気味悪さを感じました。部屋の作りはウグイス色の壁、鴨居があり、半間窓が一面だけ。まだ、午前中なのに窓が1つの為か室内は薄暗く感じた。
不気味なのは、その部屋に入った時、なんかお線香というか、燻したような匂いを感じました。さらに、入り口側の一面だけ、鴨居の下まで黒色の綿ぼこりが付いている。幅は、そう、仏壇とか、箪笥?1メートル位の幅であからさまに付いている。何でここだけ?と、思っていたがその時はそれ以上の詮索は止めた。
僕らは部屋割りをした。他の二人を仮にA.Bとします。Aは二階の一番奥の八畳。
僕は玄関脇の八畳ほどの洋室、Bは一階に二部屋ある十畳ほどの畳敷きの部屋だが奥の部屋を使うことになった。
さて、僕ら三人は一人と二人で昼勤と夜勤に別れるので、実際、日常でこの家には休日を除いては最大で二人しかいないのです。
僕、ABと分かれて、1週間サイクルで昼勤、夜勤を交代するシフト勤務。
ただ、僕は二階は絶対嫌だなと思っていたのに、二階の一番奥の部屋を選んだAは凄いなと思いました。
異変は1週間程で起こりました。
夏の暑い夜、風呂に入ろうと脱衣所に行くと小さい脱衣所の窓枠にカマキリのたまごが孵化し、おびただしい数のカマキリの幼虫が脱衣所の床上まで垂れ下がっていました。
それはもう驚きました。昆虫は好きですが、その時の異様な光景はなんとも不気味でした。三人もいて、なんで今まで気が付かなかったのか?その点も府に落ちません。
その後も、浴室のタイル張りの床に大きなムカデがいたりと不気味な事象がありました。
そして最大の問題が起こりました。
週末の金曜日、僕は夜勤。
で、反対班の昼勤のAとBは僕と入れ替えです。
Bは地元に帰ったが、Aは疲れていたのかその日は帰らず(休日は僕らが地元に帰れる大切な日だった。僕はもとよりみんなとても楽しみにしていました。)土曜昼間に帰ることにしたらしく一人家の二階で寝ていた。
そして、朝、9時ちょっと前に僕が帰るなり「あ、あぁ・・・っ、帰ってきて 助かった!」
と、Aが血相を変えて泣きそうな顔で開口した。
??
何がなんだかわからなかったが、話を聞いた。
内容はこうだ。
その日Aは0時ごろ二階の部屋で就寝、その時、窓と部屋の入り口を開けたままで、入り口側に扇風機を回したままそれを背にして寝ていたという。
朝方、ぶわっと生暖かい風を背中から受けて目を覚ました。で、ちょっとおかしいと思ったらしい。だって背中の方には扇風機が回しっぱなし。今も風が当たっていた。それでいて、ぶわっと生暖かい風があたる?そして起きあがろうとした時、目を窓に向ける。
すると、なんとそこには子供らしき姿のものが今、まさに窓から出て行こうとかがみこんでいる姿を目の当たりにしたというのです。
外はもう明るく、時計を見ると5時頃。
時計を確認し、もう一度窓に目をやるともうそこには何もない。そう、音もなくこつぜんと消えたといいます。
Aはすぐに窓に走りより外を確認しましたが人影などは無く、一階部分の屋根だけが視界に。
わずか、数秒のこと。仮に人が飛び降りたとしても、音がなるだろうし、視界に入らないなんて無いだろう。
これはヤバイと思い急に怖くなったAは速攻、一階の僕の使う部屋に逃げて布団をかぶり耐えていたという。そのうちに寝てしまい気がつけば8時半。外からは鳥の声が聞こえ、ほっとしたのも束の間。ついに金縛りにあってしまう。
ヤバイと思っていたら、二階から何者かの気配が。
ミシッ、ミシッ、
あれ?誰も居ないはずなのに・・・。
と、思っていたら
トン、トン、・・・。
階段を降りて来る?
その階段を降りて来るらしい音は、ゆっくりしたものだった。
少なくとも、僕らの誰かの運動音ではないとAは思い、だとしたら一体?
そう考え始めたとたん恐怖を感じ、金縛りをとこうともがいたがどうにもならず恐怖は増すばかり。
ヤバイ、来るっ!起きようにも体が動かない。
トン、トン、トン・・・
足音はゆっくり降りてくる。もうそろそろ1度目の左の曲がりに差し掛かるか?
トン、トン、トン、・・・
マジか、2度目の曲がりに。あと三段!三段で降りきるっ!やって来る!
トン、トン、ミシッ
ヤバイ!
と、その時、ザッザッザッと僕の帰ってくる足音が聞こえ、それと同時に今まで階段を降りてきていた足音は、一旦、その場で立ち止まり、まるでくるっと身を翻すような感じで
トン、、トン、、トン・・・
と、二階へ戻るように遠退いて行き、金縛りもとけたというものだった。
Aいわく、なにか、そこに人が居るような空気の“重み”をずっと感じていたといいます。
この話を聞いて驚いたのですが、まだ、仕事が続きます。つまりまだここでの生活があるということです。
ハッキリ言ってとても怖いです。
なので、僕とAは徹底的に家中を調べ確認しましたが二階のAの寝ていた部屋の扇風機が動いていた以外、何の痕跡もありませんでした。
ただ、この事はBには黙っていることにしました。何しろ説明が出来ないので。
僕らは嫌気を感じながらもなんとか日程を消化しました。幸い、その後は変なことはあこりませんでした。もちろん二階はその出来事があってからは使っていません。真っ昼間でも、何かが居るような気配がしてなりませんでした。
ただ、今まで一度も金縛りにあったことのない僕ですが、この家で一度だけ、金縛りにあってしまいました。
Aの恐怖体験の数日後でした。Aがあった時と同じ僕の使う部屋ででした。初めての体験で怖さというよりも「へぇー、これがよく聞く金縛りか」と。
ちなみに、すぐに体は動かせました。
そして、二週間後に僕らは出向から戻りました。
しばらくたってその一軒家がどうなっているか確認したところ、その周辺が再開発されていてまるで変わり果てていました。
当時の一軒家の立地については改めて確認はしませんでした。
会社側としては寮を準備するのにアパートよりも一軒家のほうが経費上良かったのでしょうか?
世の中には、説明が付かないこともあるんですね。
寮や社宅で生活されている皆様、あなた身の回りは大丈夫でしょうか?
心霊恐怖談で涼む 日番谷 @hitsugaya9946
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