後編

 その日は前日の夜から暑く、出歩くには不向きな気温だった。それでも僕は日課となっていたいつもの神社にふらふらと出向くのだった。


 神社の近くまで来てもなお暑く、うそつき様がいなければすぐに帰ろうと考えながら、社に近づいていく。そこで見つけたのは藍の作務衣を着て倒れているうそつき様だった。驚きのまま近づいて声をかける。とっさのことで「おいっ、おいっ」としか言えなかったが、あおむけのうそつき様は白い顔で目を開けた。

「おう。すまんな。ちょっと暑さにやられた」

 熱中症。その言葉が頭に浮かぶが、どうすればいいか分からない。


救急車、スマホを持ってきていない。

水分補給、何も持ってない。

人を呼ぶ、ここまで来るのに誰にも会ってない。


 自分がろくに準備もせずここにきていることを思い知る。

何もできず、ただ、うそつき様の手を握るだけだった。そんな僕にうそつき様は、

「心配ない。心配ない。大丈夫だから」

と、声をかける。その言葉は、僕が言うべきなのに。

 ただうろたえるだけの時間が数分。

 僕の耳にサイレンの音が聞こえた。








 結果的に、うそつき様は嘘を言っていなかった。うそつき様は自分で持っていたスマホで救急を呼んでいた。適切な処置を受け、受け答えをしながら救急車に乗せられていった。


 日が過ぎ、学校が再開して僕は登校を始めた。遅れを取り戻すかのように濃密に繰り出される課題に悲鳴を上げながらも、ついていこうと努力はする。うそつき様は勉強が大事だと言っていた。僕はその言葉を騙されたと思って大切にしていた。


 それと、その後しばらくうそつき様と会えてなかったが、心配はしないようにしていた。

 なぜなら、悔しいことに、うそつき様に嘘をつかれたことはないのだから。





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うそつき様に騙されたい @samex

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