うそつき様に騙されたい

@samex

前編

 世の中がコロナウイルスで大騒ぎしていた2020年の夏。当時高校生だった僕はそんなことはお構いなしに、出歩いてばかりの毎日だった。とはいえ、施設は休業、店は自粛のご時世の中、都市というにはほど遠い我が地元で誰かと会うわけでもなく、ただ1人で勉強からの逃避を続けていた。

 その日は神社に行ったが、そこで奇妙な老人に出会うことになる。


 藍色の作務衣。手にはうちわ。社の影になったところで悠々と座っていた。どうしたものかと様子をうかがっていると、あちらから声をかけてきた。

「お客さんとは珍しい。兄さんは外出は控えないのかい」

 悪戯を見つけたときのような、からかうような様子で語りかける。

「たまにはいいだろう。それに爺さんも外出していんるだろ」

「確かに確かに」

 そこから会話が続き、爺さんからこんな話題が出た。

「そうそう、この神社の裏に大きなナマズがいるんだ。騙されたと思って探してごらん」


 興味がわいて神社の裏に周ると、そこに魚がいるような水源はなかった。騙されたと思い、戻って文句を言うが爺さんは探し方が悪いと返す。

 再度、裏手に周る。数分見回ると驚いたことに本当にナマズがいた。正確には、大きめの石にデフォルメされたナマズが彫られていた。

「ほらな。いただろう」

 してやったりといった爺さんの顔とその言葉は、家に帰ってからも残り続けていた。


 次の日からも僕は神社にいりびたり、爺さんと話をするようになった。今から思えば人とのつながりに飢えていたのだろう。爺さんの話を聞いたり、自分の話を聞いてもらったりする関係が続いた。

 時折、爺さんは最初のナマズのように嘘みたいな話をするので、爺さんのことを”うそつき様”と呼ぶようになっていた。爺さんが嘘のような話をするたびに、それが事実かどうかを半ばムキになって確認していた。嘘を嘘であることを暴いて、記憶に残る”してやったり”という顔を上書きするために。

 そのためだけに、パソコンに向かって調べたり、実際にその場所に行ったりと大忙しだった。結果としてうそつき様の、嘘のような本当の話は、何もないと思っていた地元の勉強にもなったし、何より面白かった。そのことを伝えると、うそつき様も勉強は大事だと、いつもの顔で笑って言っていた。



 そんな関係が終わったのは8月の終わりの暑い日だった。

 


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