第五章 第四話

「彼女が犠牲って、どういうことだ」

「言葉の通りさ。俺が関西に来た、もう追い回せないと察知したのだろう。だから分家の人間が藤沢にいた彼女を殺した。ただそれだけだよ」

 ん、なんて残酷な。愛する人を身内に殺されたというのか?!あの騒動がここまで発展するとは、どうして、もっとはやく分家をとめられなかったんだ。

「それでね……」

 八一が続ける。目には、らしくもない涙を貯めている。今にも零れ落ちそうだ。

「俺は、分家に復讐しようと心に誓った。そして、その時に声をかけてくれたのが、波間真仁だったわけさ。彼は、自身が世界の支配者へと成り上がることで、誰もが悲しまない、そんなまさに夢物語のような世界をつくりあげようとしたんだよ。この一件で心底この世界を嫌い、自分の運命を呪ったからね」

「八一……」

 かける言葉が見つからなかった。そんな想いを胸に戦っていたなんて。でも、そんな想いがあったからこそ、俺は、八一との戦いで、自分が戦う本当の意味を見いだせたのかもしれない。

「でもね、そんなのは本当の夢物語だったんだよ。ゼラリアとの戦いで、残念ながら波間真仁は命を落とした。俺は、命からがらなんとか離脱できたけどね。波間カンパニーで、世界を変えようとしていたのは彼と、極一、前島の三人だけだったんだよ。そのほかの従業員は、金に目をくらませていた。すべては金のため。支配者階級へと上り詰め、市場の独占を狙っていたのさ。ほんとにちっぽけな組織だよ。でもね、そこで思い出した言葉があるんだよ。それはね……君の言葉だよ。柊人くん」

「え?俺の言葉?」

 記憶をくまなく探してみたが、八一とまともにしゃべったのは、人生で三回しかない。その中でも、一回目は親と一緒に他愛無い世間話だけで、二回目もいたって普通の小学生同士の話。そして、三回目はこの前の戦いの時だ。そんな中で、八一に何か気づかせるような言葉は何も放っていない。

「そうだよ。君の『大事な人は俺が守る』って言葉だよ。アレは胸に刺さったね。俺は大切な人を守れなかった。戦うどころか、逃げた結果引き起こした結果だったんだよ。波間カンパニーで、一戦闘員として、戦うことによって自分でそれを忘れようとしていたのかも知れないね。だからこそ、君の言葉で一気に現実に引き戻されたんだよ。だから、波間カンパニーが壊滅した時も、社長の死を惜しみつつも、ここにくることには躊躇がなかった。だからね……」

 八一の方からさわやかな風が吹いたように思えた。

「ありがとう」

 八一は普段見せないやわらかな笑顔でそう言い放った。

「こちらこそ」

 俺は八一の過去と決意に涙を流しつつも、下を向きながらも、そう答えた。正直俺が泣いている理由もわからないが、八一の表情をみていると自然と涙が出てきた。八一が笑顔になれる理由もわからなかった。どうして、そこまで強くいきられるのだろう。もし自分が……と考えるだけで逃げ出したくなる。


 そして、そうこうしている間に一日がたった。

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