第五章 第五話

「正造!」

 お父さんが外国から帰ってきた。

「宗一郎!よかった!」

「で、瑞穂は……!極秘棟か!」

「そうだ!早くいってやってくれ!」

 お父さんが極秘棟へと走り出した。それに俺もついていった。


「柊人久しぶりだな、こんな状況になってしまってすまないな」

「何言ってんだよ。これはとうさんのせいじゃないだろ」

 久しぶりにみた父の背中は大きかった。自分の研究に巻き込んでしまったことに後悔があるのだろう。

「でも、この事件は紛れもなく22年前の続きだ。あの時に私たちはうまく事を鎮めることができなかった。その影響で今もなお研究に励んでいるのだけどな。まさか、子供たちを巻き込むとは思っていなかったよ」

 父の顔からは悔しみと悲しさがにじみ出ていた。

「柊人。22年前のことは詳しく聞いてるか?」

「いや、そこまで詳しくは……」

 そうか、と言って父が大きく息を吸い込んだ。

「その時代厨二病というのはあまり認知されていなくてな。当然今のようなアニメやラノベが盛んな時でも無かった。でも、俺と正造ともう一人の男は違った」

「南慎吾さん……」

 良子さんから聞いたその名前を口に出した。

「そう。彼は私たちと同じ厨二病患者。その中でもトップクラスだった。そして、彼は今の柊人と同じように神によって選ばれた力を持つものになったんだよ。元々、人間というのは潜在能力というのを誰しもが持っている。しかし、その能力は現在の人間の知能では引き出すことが不可能である。脳の中の神経回路が接続されていない場所に保存されている情報だからね。でも、神はそれをつなげることが可能であった。それも、人間離れした能力を発揮するレベルから民衆を操るレベルの小規模なものまで、自由自在さ。織田信長や足利義満、藤原不比等もその一人だといわれているよ」

「そんな偉人達まで……」

 それ以上は口に出さなかった。なによりもこの話の続きが気になって仕方なかった。

「それで、南慎吾は、その一因になったんだよ。しかも、過去の偉人とは非にならないレベルの力を持った」

「その力って?」

「それは……世界を歪め、破滅へと導く力」

「え?」

 決して、難聴鈍感最低主人公を演じているわけではない。はっきりと耳には聞こえている。しかし、またもや脳の理解が追い付かなかった。

「彼は、ヒトではなくなった。人を超越し、神に近い存在となった。見えないものまでが見え、何かするたびに、世界的に大きな事件が起こった。それに彼はもともとメンタルが強い方ではなかったからね。自分のせいだ。と自分を責め、結果的に自ら命を絶った。しかし、それが状況を最悪の方向へと、もっていった。世界が完全に歪み切って、元に戻らなくなった。だから、様々な能力者を集めた。結局次元師さんたちが次元をゆがめなおしたんだけどね……」

 世界が歪み、次元を歪めた……それって。

「賢い柊人なら気づいただろう。そう。世界が歪んだのに、次元を歪めた。つまりは、この世界はハリボテに過ぎない。そんな、無茶な戻し方をしたからその歪みが大きくなって、今こうなったのだろう。ほんと、酷い話だよな」

 ハリボテの世界。この何十億もの人間が生活する世界がハリボテ?一握りの人間しか、本当の世界のことを知らない。つまり、世界は知っているようで知らないところで動いていた……と。

「じゃあ、ほんとの世界はどうしたら戻ってくるんだよ?」

「わからん。今回の件は前回と違って、まだ世界を戻せる可能性がまだある」

「そうか」

 そこで、二人の会話は終わった。この世界がどうなるのかも分からない。実は今見ているこの光景は夢なのではないか。そう疑ってしまうくらいに現実離れしている。

 走るペースを上げた。


 ちょうど、瑞穂の部屋まで100mくらいかというところ。

「うぁあああああああああああああああああああああああああああああ」

 瑞穂の叫び声が極秘棟に響き渡った。瑞穂の聞いたことのない絶叫に悪寒が走る。

「どうしたぁああ!!!瑞穂ぉお!今行くからなぁ!!」

 走った。全速力で走った。

 そして、部屋に勢いよく入ると、ものすごい熱がこちら側を襲った。そして、強い光を発していた。

「熱い。痛いいいぃいい。いややぁぁああああああ!」

 瑞穂の痛々しい声が耳に響く。

「瑞穂ぉおお!大丈夫か!今いくからなぁ!!!」

 そして、父が中に入っていった。その姿は本当に勇ましかった。

 しばらくして、光は収まり、熱も収まり、煙が充満した。

そして、煙の中から、瑞穂を抱きかかえてお父さんが出てきた。

「瑞穂は大丈夫だ。これが覚醒か……」

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