第五章 第三話

 司令部へ行くと、石川さんと、八一がいた。

「やぁ。この前ぶりだね。柊人」

「八一。貴様何しに来た。俺をまた暗殺しに来たのか?」

「暗殺か……もうそんな必要はなくなったんだよ」

 前回会うときは次こそは!って、意気込んでいたのに必要がなくなったなんて……

「柊人君。世界のバランスが完全に崩れたよ……」

 石川さんが深刻そうな顔で言った。

「世界のバランスが壊れたってどういうことですか?!」

「波間カンパニーが壊滅した。ゼラリアによって……生存者は八一君だけだ。そして、ゼラリアはシルフにも宣戦布告してきた。これは非常にまずいよ……」

「そんな……それってなんとかならないんですか?!それより扉が開いて、バランスも崩れたって、それかなりまずくないですか?」

「うん……」

「波間カンパニー社長の波間真仁は最後まで戦ったんだけどね、彼の秘書の極一うららと前島えりも戦ったんだよ、かなりの実力者なんだけどね……ゼラリアのトップ イエラニス・ゼラには歯が立たなかった」

 イエラニス・ゼラ……かなりの実力者か……

「石川さん!!大変です!」

 川井さんが大声をあげた。

「ゼラリアから、ゾーディア財閥の山峰は預かった。宣戦布告はもう済んでいる。返してほしければ、はやく戦え とのことです!」

「なんだって!!こんな時にホントに……シルフは今まで中立主義だったから軍事装備は一切ないのだけど……一体どうすれば……」

 シルフはほかの二つの勢力の戦争を抑え込むために中立な立場を今までとっていたのだった。だから当然武装なんてないのだ。

 武力的に戦いが起きたらその時に一番最初に壊滅するのは間違いなくシルフ。

 波間カンパニーは、財力が底をつくまで軍事というものに投資したのに、あっけなくゼラリアにやられてしまった。波間カンパニーの欠点は、能力者がいないことだ。

 それで、何故世界のバランスを保つ団体の一つになれたのかって?それは、波間カンパニーの創設者にして、波間真仁の父とその仲間が能力者で、あの22年前の事件に大きく関係していたからだ。しかし、その後病を患って、今ではゼロという、戦力的に乏しい結果に陥ってしまったわけである。

「イエラニス・ゼラ……どこまで卑怯な人間なんだ!!!」

 八一が唇を強く噛み締めた。

「なぁ。八一。こんな時になんだが、何故お前はここにきた?」

 こんな緊急事態に聞くことではないと分かってはいたけど、どうしても八一の表情をみると聞かずにはいられなかった」

「どうして、ここに来た……か。なんでなんだろうね」

 八一がため息を吐くと同時に上を向く。俺は視線をズラすことなく、八一を見つめる。

「多分、自分の失敗に気づいたからじゃないかな……」

「失敗?」

八一が放った“失敗”という言葉が、頭に鳴り響く。

「ほら、どうして四条家が二つに完全に分裂したか、覚えているかい?」

「あぁ、もちろん覚えてるとも。でも、それがどうした?」

 完全に身内の話になっているが、周りのみんなは、黙って聞いている。

 そう。俺の血筋である四条本家と八一の四条分家は、俺らの3世代上の時代に完全に分離してしまった。

 それは、これからの四条家の方針についての意見の不一致。それが原因だ。

 四条家は代々血筋を途切れさせないため、他家に嫁にいれない。という方針をとっていた。しかし、三世代上で、嫁入りが大半になってきた社会に適応するために、そういったしきたりを無くそう。と、話が持ち上がったのが始まりだ。その時代、婿入りはちょっと……と拒絶する男性が多かったそうだ。そして、四条本家側は認める方針で、四条分家は認めない方針で、それぞれ進むこととなった。さらに、住む場所も変わり、四条本家は今まで通り、大阪北部に。四条分家は、関東鎌倉周辺へ。

 つまりは、事実上の絶交。血筋の完全分離という最悪の結果に陥ってしまったのである。

「うちの家系は、あの騒動をかなり後悔していたんだよ。ただ、加熱しすぎて引くに引けないっていう事態に陥ったんだけどね。つまり、男女関係の話で失敗したんだよ。で、分家の方針は男女関係については必要最小限しか行わないという、理不尽な方針に代わってね。それで、俺は家を飛び出したわけさ。幸い財力には余裕があったからね」

「何故、恋愛禁止条例的なもので、家を飛び出したんだ?」

 単純な疑問である。

「恋愛禁止条例的なもので……か。いいだろう、教えてあげよう。何故四条分家がそのような方針をとったのか。それは……四条分家を俺で終わらせるためだよ」

 時が止まった。衝撃の一言に、思考回路が追い付いていなった。

「ど、ど……どういうことだよ」

「さっきもいっただろ?分家は、本家との騒動を後悔しているって。だから。ここで支障分家を終わらせて四条本家への罪滅ぼしをしようと考えたわけさ。そうすれば、事実上の統一ができるだろう?」

 なるほど。いかにも、分家の考えそうな手だ。

「それで、飛び出してきたのか」

「まぁ、生憎俺には愛する人がいてね。高校生ながらにして、将来を誓い合った仲だ」

「そうか……」

 確かに、クール系イケメンの八一はモテるだろうな。うん。

「だからさ、ここで血筋をとめるなんて決して出来なかった。出来るはずがなかった。だから、分家を出て、不本意ながら本家にすがろうと考えたわけだ。でも、そんな作戦がうまくいくはずが無かった。まぁ、計画が分家にバレてね、分家は俺の暗殺を試んだ。でも中学の陸上部で鍛えたかいがあったよ。近接戦で、見事に逃げ出せてね。なんとか大坂北部にたどり着いたわけさ」

 さすが、県大会入賞陸上部。ニュースで名前がのがれているのをみたことがあった。

「でも、それじゃ、今も命を狙われているってことか?」

「いや、もうその心配はないよ。なんてったって……彼女が犠牲になったから」

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