第四章 第十九.五話

そして、不定期に開かれる、良子と波留の夜会。

 夜会といっても、現在ヨーロッパ支部のある、ドイツはまだ昼間。つまり、まだハルは勤務時間中というわけだ。

「やぁやぁ。今日はなにをやらかしたのさ~」

「何もしてないわよ!その固定概念をいい加減捨ててくれない?」

「いやぁ~この夜会をするときは、大体良子の失敗談を聞かされるところからはじまるからさ~ついつい」

 いや、いつもそうなのはたまたまであって……決してやらかしたからこの夜会を開いている訳ではなくて。

「で、今日は何なのさ」

 波留が尋ねる。Skypeで話を進めながらも、タイピング音が聞こえる。真面目に勤務しているようだ。

「又、やっちまった」

「ほら、今回も結局やらかした話じゃん~アハハ」

 独特の高い笑い声がskype越しに聞こえる。

「笑わないでよ……」

 思わず泣きそうになる私。あぁ。大人げない……

「いや~ホント、良子はかわらないねぇ~、まぁそこも普段の良子とギャップがあって、かわいいんだけどね~。でも、まてよ。こっちが普段の良子となると……仕事の時とのギャップと言ったほうが正しいかな?アハハ」

「やめてよ!かわいいだなんて、私には似合わない言葉だわ」

 自分でいうのもなんだが、私は決して可愛くないわけではない。学生時代にも、人並み以上にはモテた。でも、私は今イチその重要性が理解できない。顔がよくて、ルックスがいいからって、どうして異性にはモテて、同性には妬まれるのか。容姿なんて、人を判別するときだけに使用されるものだと思っている。だから、そんな考えをこじらせた結果、どうして人は恋をするのかわからなくなる。まぁこのように、仕事に追われているうちは、学生時代のように、そんなことには縁もゆかりもないんだけどね……

「そんなことないよ!」

 波留が強く否定してくる。

「良子にはぴったりの言葉だよ!あぁ。私も高校の時に、厨二こじらせなければ今頃こんな社畜にならずに済んだのにね。私の人生設計では、大阪から上京して、IT企業の社長と結婚して、自由奔放に生きる予定だったのに!!」

 波留もルックスはかなりいい。いや、ものすごくいい。「波留も」というより、「波留は」と表現すべきだろう。そのくらい、一般人とは違ったとびぬけたものを持っている。しかし、ルックスは良くても中身が少々ね?高校の時に黒眼帯に、腰にはモデルガンという自称遠距離支援型女子校生だったわけで……その先はお察しの通りな訳で。

「精々自分の過去を恨んでくださいな。でも、社畜とはいうほど働いてないでしょ?十分自由奔放していると思うのだけれど。それに比べて、私の方が社畜よ?普通の会社ならかる~く労働基準法にひっかかるレベルの勤務時間よ?」

「ジャパニーズハタイヘンデスネ。アァ、ヨーロッパシブハタイヘンデース」

 波留のカタコトジャパニーズがはじまった。

「あぁ、ほんと、ヨーロッパ支部は気楽でいいわね」

「その分出会いはないけどね?社員は既婚者だらけ、というか、私だけだよ独り身は」

 いや、たぶんモテてはいると思うよ?容姿端麗、仕事もできて、まさに現代日本人の理想であり最高峰。でも、考え方が一般人と違うから、そこさえ直せば……

「私も日本に帰りたいよ~!四条君狙ってみようかしら?」

「やめなよ!彼はまだ、高校生よ?ドイツの法律はしらないけど、日本の法律では手出したらアウトだからね?」

「ちぇ~大人の包容力ってやつで、あんなことやこんなこと、ワッキャウフフな事したかったのになぁ~そして(自主規制)」

「波留。あんたそんなんだからモテないのよ。あのね、もっと普通にしてたら、今頃毎日のように告白されて、男の二人や三人ざらにいたわよ。せっかく,生まれたときからラノベヒロインコースにのってたのに、厨二こじらせてその道からはずれて、なんでだぁ~って、わんわん後悔してたくせに、なんで学習しないかなぁ~」

「あぁ、もういいいもん!私は一人で生きていくも~ん!モテない良子よりは少なくともまだ希望あることわかったからいいも~ん!!」

「なにぃ~ほっとけ!」

 恋という感情はよくわからなくても、モテるというステータスはなんとなく捨てたくない。波留にいじられ少し不機嫌になる私。すると、波留の笑い声が聞こえた。

「アハハハ、私たち、ホントに昔から変わらないね~!」

「そうね、いつになったら立派な大人になれるのかしら」

「厨二こじらせている間はしばらく無理だね~中途半端な大人どうし、これからも仲良くいこうよ!」

「そうね!私はそろそろ、目の前にある大量の報告書を処理しないと、そして、始末書も……今日もありがとね!また連絡するわ!」

「了解~!って、そういえば、何やらかしたか、聞いてなかった!!」

「ささいなことよ。波留と話してたら、なんか元気出てきたし!」

「そっか!まぁ、事後通販……じゃなくて、事後処理頑張ってね!」

 こうして、本日の夜会もめでたく終了。目の前にはいつの間にか、空き瓶が何本もあった。

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