第四章 第十三話
「お兄ちゃぁん!どこいってたのよぉ!」
二階に戻るなりすぐに瑞穂が飛びついてきた。
「あぁ。ごめんよ。あ、そうだ、瑞穂、真白と大切な話があるから、先にフードコートで席をとっておいてくれないか?」
瑞穂が何かを察したようにニヤけながらこっちを見てくる。
「言っとくけど、告白とかじゃないからな」
すっかり真顔にもどって、退屈そうに
「柊人君、大事な話って?」
きょとんとする真白、その顔の裏に何かを察し、少し期待があることが伺える。こいつも妄想癖有女子かよ……
「真剣に聞いてほしい。俺――シルフに戻ることにした」
「え……」
真白が絶望したような顔をする。そして、買い物袋を地面へと落とした。
「どうして?あんなことをした組織だよ?もう戻らないって言ってくれたじゃない。私にもう一度あんな目にあえって言うの?私じゃなくて、やっぱり自分の事をとるの!どうして。ねぇどうして!!」
周りの目線が、俺を貫く。
「決して、自分の事を優先したわけじゃない。でも、そう思うよな。俺が真白の立場だったらそう思うよ。でも、さっきとある女性に会ってな、そいつに言われたんだ、シルフに戻って妹を助けてほしいって」
真白が両手に強い力拳を作り下を向いて呟いた。
「そうなんだ……柊人君は私じゃなくて、初対面の人の妹さんを選ぶんだね……」
真白の下に水滴が堕ちる。
「違うんだ!聞いてくれ!その人はメルディア・ゾ―ディアさんって言って、あの有名なゾ―ディア財閥の人で、お前の身柄は財閥の総力を挙げて保護すると言ってくれたんだ!だから大丈夫だ!」
「でも、そんなのホントか分からないじゃない!どうして、そんな危険を冒すの?」
真白の落とす水滴はカーペットへと滲んでいた。
「違うんだ……鍵の候補は、命の危険があるんだ。俺はお前を失いたくない。だから俺はシルフに戻るんだ。頼む、分かってくれ」
そう。メルディアの一言<命の危険がある>という言葉が胸に刺さったからこの判断をしたのだ。
「え……命の危険があるって……私が?嘘……そんなの……そんなのってないよ。どうして、私はいつもいつも不幸な運命に会うの?どうしてなのよ!」
更に真白の落とす水滴のペースが速くなる。
「大丈夫だ!お前を死なせたりしない!だから、聞き分けてくれ!さっきも言ったが、俺はお前を失いたくない!ただそれだけなんだ」
真白が目をこすり、涙を拭き、目をはらして目線をこちらへ向けた。
しばらく時が止まったように感じた。
「私の事。考えてくれてたんだね。ごめんなさいね。勝手に泣いて。勝手に怒って。ホントめんどくさい女よね。うん。まだ、納得のいかない所もあるけど、分かったよ……でも、柊人君、無理はしないでね……私を守ってね!」
涙を拭きながら、真白は笑顔で言った。
「うん。ありがとな」
こうして、短かかった無所属の身を捨て、俺はシルフへ戻ることとなった。今度は同じ失敗を繰り返すまい。と強く心に誓って。
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