第三章 第六話
三人はエレベータ―に乗り込みシルフ倉庫へと戻った。
まだ一に魂は戻っていない。稀にみる細いプライドだな……
「それで、克実。なにか情報はつかめたか?」
「ん~中々いいものが得れたんじゃないか~な?それを話す前に――」
ドカァンンンン!!!
「えええええええ?!?!?!?!」
俺は目を疑った。なんと、聞いて驚く事なかれ!克実が抱えていた一を地面に叩きつけたのである。
「ぐはぁ―――――」
タッタララ~ン♪おめでとう!一がこの世に魂を取り戻したよ!やったね!!
そんな妄想アナウンスをしていると、叩きつけられた少年がこちらを睨んできた。睨むなら、克実を睨めよ……
「おい、柊人……………貴様!私を殺す気か!!!」
「え?え?えぇええええ!お……お……俺じゃねぇえよ!そこの馬鹿だよ!」
そういって加害者の方を向いた。すると、まるで他人事のように、窓際に腰を落とし、夕日に照らされる高層ビル群を眺めていた。
「は~い?およびですかぁ~?」
無実を装う見事なクズっぷり。役者に向いてるんじゃねぇか?
「あ、一~!もどってきたんですねぇ~!ほんとにぃ~もう~」
役者さんが、少し頬を膨らませて、一をみた。ワンチャン、女装コスプレしたら、バズるんじゃね?不覚にもかわいいと思ってしまった俺がいた。イケナイイケナイ新たな扉が開いてしまうところだった。
「ホントに申し訳ない。いや~なんだか今日は空回りしてしまうなぁ~アハハ」
あ、ごまかした。
「で、克実。その得た情報とやらを教えてくれ」
「わっかりましたぁ~。え~とですね。まずシリウス・ベリトはこのビルにいます。先ほど目視にて確認致しました。そこで、定時連絡を受けました。そしてヒトロクサンナナ頃さらに上層階へと移動しました。以上の点を踏まえて、シリウス・ベリトはこのビル上層階に頻繁に出入りしている物と推測されます」
驚いた!あのサイコパス感溢れる克実が普通に――いや、かなりしっかりとした日本語で話しているではないか!普通に喋れるなら普段からしろよ!!
「なるほど。それにしてもすごい観察力だな……」
「そ~でしょ~!エヘヘ」
あ。元に戻った。まぁいいか。
「さ、克実、柊人、今日はここで解散にしよう。本部へは私が報告しておくから」
「といっても、一に送ってもらわないと、帰るにも帰れないのだが……」
一は免許をもっているが、俺と克実は持っていない。まず同じ17歳の一が免許を持っている事に違和感しか持てないが、シルフの特権を使って、政府が特例として容認したんだとかなんとか……
「あぁそうだったな。分かった。送っていこう。では、柊人、車内で本部へ報告をお願いする」
「了解」
三人は一の愛車の軽自動車へ乗り込んだ。
軽自動車とは思えないパワフルなエンジン音が駐車場内に響き渡る。どうやらチューニングしてあるらしい。ついでに、バックミラーにかわいいウサギさんが付いている。これはいじるネタとして使えそうだな(メモメモ)
「よし。シートベルトをしめろ。出発するぞ!柊人の家は市役所の近くで良かったんだよな?」
「あぁ。市役所前のグラウンドの所で降ろしてくれ!世話をかけるな!」
「なぁに、本部へ帰るついでだからな」
柊人の家は市の中心街に近く、市役所などの公共機関が点在する場所にあるのだ。
シルフ入社(?)入会(?)時に渡されたハイテク腕時計型通信機を起動する。
「四条より本部。本部聞こえますかぁ?」
「あぁ!柊人君か~!きこえてるよぉ!それで今日はどんな感じだったかな?」
元気のいい石川さんの声が聞こえてきた。この声をきくとなんだか安心してしまう自分がいた。
「任務過程連絡をします。本日、四条・神谷・乾の三名はヤマナニュービルディングにて潜入調査を行い、シリウス・ベリトがこのビルに頻繁に出入りしているという事を確認致しました。任務に問題はなく順調に進んでおります。以上任務過程連絡でした」
「なるほど、ご苦労様!」
石川さんがそう言って通信を切った。そうこうしている内に市役所前のグラウンドへついた。
「柊人着いたぞ。今日はご苦労だったな」
「あぁ。一ここまで送ってくれてありがとな、克実は――って、いつのまにか寝てる。かわいいな。まぁ今日はしっかり働いてくれたしな……お疲れさま!又明日!」
一はかっこよく、窓から手を出して手を振り、地平線――じゃなくて、公道へと走っていった。陽は完全に落ち、あたりは静寂な闇に包まれていた。暑さだけが、異常な存在感を示す。ホントにこまっちゃうね~?
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