第三章 第五話

「社員証のご提示をお願いします」

 守衛さんが怖い笑顔でこちらに訪ねてくる。そして一が社員証を出す。

「残りのお二人もお願いします」

 社員証を持ってるどころか、存在をもさっき初めて知った二人は驚いた。しかしそれを見て臨機応変に対応しろよと言わんばかりのオーラを出しながらに銀髪秀才が助け舟を出してくれた。

「スイマセン。こいつら新人で……まだ社員証無いんですよね…」

「それなら仕方がない。なるべく早く発行するようにしなさい。通行を許可する」

「善処します。通行許可感謝します」

 銀髪秀才が頭を下げたので慌てて柊人と克実も頭を下げる。そして、建物内へ入る。正面玄関から入ると商業施設とは干渉せず、直通で中層のオフィスエリアまで行くことが出来る。 エレベーターに乗り45階のボタンを押す。ものの1分くらいで到着した。三人はとりあえず廃れたシルフ倉庫へとやってきた。

「うわぁ~これはこれは、お掃除が必要で~すね~」

「克実の言う通り、掃除した方がいいな……一体どうやったらこうなるわけ?」

「ここを最後に使ったのは6年前くらいかな。いる物だけ持って行って他はそのままだからな。そこの冷蔵庫も開けるのがおぞましい」

 三人の目線の先には、長い間封印されていた邪機腐乱氷冷機 通称―冷蔵庫が不気味なオーラを放ちながら存在していた。匂いは―大丈夫だ。完全密閉されている。冷蔵庫は温度を外に逃がさないように密閉度が高くて、核爆弾の放射線も通さないらしいしな!ほんとに、その密閉度がなかったら……考えるだけで恐ろしい。

「ここ、あけてみていい~ですかぁ~?」

「馬鹿!そんなことしたら……バイオテロと同罪だぞ??頼むからやめてくれぇ!」

 ほんとに克実の好奇心には手を焼かれるな……なんであれを開けようと思うんだよ……


「おい!柊人!柊人!!」

「ん……ふぁ~……」

「まったく。任務初日からいいご身分だな!」

 どうやら作業中に寝てしまっていたらしい。でも……なんで寝てるんだ……――あ、そうだ!確かふかふかのソファーをみつけて、ついうとうとしてしまって……うわぁー俺やっちゃったよ……寝ちゃったよ……でも、最近ほんとに睡魔がよく襲ってくるんだよな……

「ホントにゴメン……」

「だ~いじょうぶで~すよ!きりかぁえて次にいいましょ~!」

 克実が気にかけて優しい言葉をかけてくれた。いいやつだな……コイツ……


 三人はシルフ倉庫を出て上層階へと向かった。目的はもちろんシリウス・ベリトの所在地などの情報収集のためだ。

「よし。改めて説明するぞ!このエスカレータ―から60階まで上って、ビルの契約金の話をするという定で、ベリト財閥経営部へと潜入。そこでさりげなくシリウスを探す!いいな!」

「あの~エスカレータ―じゃなくてエレベータ―では?」

 一が赤面する。完璧主義の一にはきつかったのだろう……うん。わかるよ。俺もよく間違うよ。エレベーターとエスカレータ―ってややこしいよ。うん…………

「失礼した。それはともかく。作戦内容は体に入ったな?」

 うわぁ~体に入ったなとか言っちゃったよ……動揺しすぎだろ~頭と体の判別つかなくなっちゃったよ~あぁこれが超絶かわいいボンキュボンのお姉さんだったらなぁ~とりあえず気づいてないふりしとこ……

「体に入ってるなってど~いうこぉとですかぁ~?」

 克実……それ以上追い打ちをかけてやるな……もうやめて!彼のライフはゼロよ!――くぅう!このセリフ一度でいいから言ってみたかったんだよな!

 一が完全に沈黙した。キリっとした一の姿はもうない。まだ会って初日だが、もう第一印象という概念は完全に狂った。人は見た目で判断できないとはこういうことだな……

 ポーン 60階でございます。 

 エレベーターのアナウンス音声が無言の空間に響いた。まだ一は戦闘不能状態。さっきから『もうだめだ……ぼくなんて……ぼくなんて所詮はゴミくずだ……存在価値なんてないんだ』と、どこぞのヤンデレちゃんやねん!と、突っ込ませるような独り言を繰り返している。でも、絶対突っ込まないからね?あえて突っ込まないからね??でも、社員さんとの会話の要は一だったからなぁ。困るなぁ。克実に話させるとろくでもないことが起きそうだし……しょうがない、俺が話す――

「こ~んにちわぁ~シルフ所属の乾克実とも~しまぁ~すぅ」

 ズテーン!という効果音が鳴りそうなくらいのお見事なるフラグ回収ありがとうございます。あぁ。

「どうも初めまして!同じくシルフ所属の四条柊人と申します!今日は契約金の話で参りました」

「(ちょっと柊人君!なんで邪魔するんですかぁ~??)」

「(そのサイコパス感満載の喋り方は一般的に怖がられるから、一の面倒みつつ、シリウスのヒントになりそうなものが調査してくれ!)」

「(サイコパス感満載の喋り方?!ひどいですぅ。柊人君は僕をそんな風にみていたんですねぇ~。あぁ。とてもとても残念です……)」

「((あぁ……、えんどくせぇ)とりあえず頼むぞ!)」

「あの~大丈夫ですか?」

 対応してくれた財閥の方が困った顔でこちらを見つめてくる。ここでバレたら元も子もない。

「あぁ!すいません!大丈夫です!アハハ!それで、契約金についてなんですが……」

 咄嗟に契約金についてと言ってしまった。

「契約金がどうかされましたか?」

 やばい。なんとかごまかさないと……

「あの~明細を見させていただいたんですが、周りの事務所さんより少し高いかなって……はっきりいいますと、お値下げ頂けないかな~なんちゃって!」

 我ながら見事な回避っぷり!とっさに思い付いたのが値下げの話なんて、さすが純血大阪人だな~

「お値下げですか……え~と少し待ってくださいね~えっと、シルフ……シルフっと。あった!え~と現在が月170万で、周りの新規事務所さんは月130万ですから……わかりました!ビル建設当時から契約いただいてるんで、170万円とお高い契約金のままになってましたが、150万で手を打ちましょう!そのかわり、これからも宜しくお願いしますね!」

 うそだろ……おい。あっさり20万円も安くなっちゃったよ?お金持ち財閥にはそんなのちっぽけな金ということか……てか、値下げ交渉にも本気じゃなかったのに……でも、なによりも驚きなのは出まかせに言ったのに、周りの事務所さんの方が安いってのもホントなの?!ホントに……石川さんにお説教だな。これは……はぁ。いい加減すぎるだろ……

「おお!20万円も!ありがとうございます!ではそれで社長に話をしておきますね!きっと喜ばれると思います!こちらこそこれからもシルフを宜しくお願いします!」

 反応に困った俺は、咄嗟に社交辞令を口にした。

 喜ぶ暇もないほど、このいい加減っぷりを問い詰めますので心の準備をしてお待ちください(満面の笑み)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る