第三章 第七話

車を見送った後、しばらくボーっとしていたが、暑さに耐えきれなくなり、帰路へつくことにした。

ここから家まで約400mで、のんびり歩いても5分あったら着くだろう。そういえば石川さんに説教するの忘れてた……明日みっちり説教だな!年上の人に説教するなんてなんかイケナイ事やってる感あってワクワクするね!

「おい、そこの少年。お前、四条柊人だな」

 急に名を呼ばれ、驚いて足が止まってしまった。

「はい?そうですが……」

夏のこのくそ暑い日に黒色のコートを着て、黒色の手袋をしている男性に声をかけられた。この人ってひょっとして、ちょっと前に先生が言ってた変質者か?

「あの~大変聞きづらいのですが、もしかして……変質者ですか?」

「君、おもしろい事言うね。私を変質者などと言ってもらっては困るなぁ。なぁに通りすがりの旅人だよ。申し遅れた。名をニソラ・トリと言う」

「ニソラさんですか。で、何故僕の名前を?」

ニソラはニヤリとして答えた。

「それはね、君に忠告をしに来たんだ。鍵について話しておきたいと、思ってね」

「忠告?鍵?一体何の話ですか」

 俺の記憶を探ってみたが『鍵』と聞いてヒットしたのは、家と自転車の鍵くらいだった。

「君は能力者だ。しかし、普通の能力者と比べると少し異質だがね。そういう点については君の方が変質者ではないかね?」

うまいことを言ったとでも思ったのだろうか。一人で高笑いを始めた。はい、座布団全部もってって~

「で、鍵についてだ。君がこの世界を妄想によって変えてしまった。それにより、鍵と呼ばれる二人の人物が出来上がった。それは新たなというより、すでにいる人間に宿ったという方が妥当かもしれない。で、その人間を君の所属する、確かシラス?だったかな、まぁそんな組織が探している。鍵は二人。いまだに誰かは分っていない。しかしだ、何においても君の所の組織は今、相当ヤバい事してるよ」

 ニソラがニヤッとしたのが分かった。

「つまり、何が言いたい?」

つい、強張った顔で聞いてしまった。

「君の組織の所に、監獄があるはずだ。おそらく管理棟とか病棟とか秘密棟とかいって、近づけさせないようにしようと思うが。その中に鍵だと思われし人物がひどい状態で入っているだろう。で、ここからが助言だ。一度君はそれを見ておいた方がいい。君がいまどんな立場に立とうとしているのか。君の組織が何をやっているのか。すべての真実を知っておくべきだ」

なんだ。この心が痛む話は。これじゃまるで、俺のした妄想で苦しみ続けている人が居るみたいじゃないか。どうしよう。震えが出てきた。それと同時にニソラに対して、殺意が出てきてしまった。抑えろ自分……

「ご、ご忠告ありがとさん。そうだな、これは俺が引き起こした事だ。真実は見ておくべきだろう。それじゃな」

「あぁ」

笑顔でニソラが手を振る。実に不気味な男だ……

でも、彼の言う事は実に気になる。シラス――じゃなくて、ってシラスって食べ物やないか!そんなことはおいといて、シルフにも極秘棟という立ち入り禁止重要区画がある。当然俺も、そこで何をやっているのか分からない。彼の話すことが嘘だと思いつつも一度確かめてみる必要があるな。


日付は変わり、新たな陽が昇り、短針が8を指す。そして、アラームではなく、電話が鳴る。

「はい。もしもし。四条です」

「おはよう柊人君!着いたよ~はやく下まで来て~!――プ―プープッ」

電話が切れた。一が迎えに来てくれるのかと思ったが、今日も良子さんのお迎えか。で、今日は――極秘棟の調査だな。スパイ活動みたいだな……

「おい。起きろ、不良妹。俺は行くからな、夏休みだからってダラダラせず、宿題でもしとけよ。じゃぁな」

「ふぇ~い」

毎度おなじみ外面だけは良い瑞穂ちゃんを起こして家を出ていきます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る