第二章 第二話

「起立・礼・着席」

「えぇ~今日は7月14日!今日も一日頑張っていきましょう!今日は重大な報告があります。今日休んでいる北斎さんに関してですが、今日から留学に行くことになりました!!突然で驚いているかもしれないけど、向こうで頑張っていると思うから、私達も頑張りましょう!」

「先生~真白ちゃん一言もそんなこといってなかったよ?」

「本人の希望で出発日までみんなには黙ってて、って校長先生が言われていたらしくて、先生も今日の朝初めて知ったんだよねぇ~。すごく驚いたよ~」

そんなことあるのか?うちの担任は学校のグローバル推進担当だぞ?留学とかそういったことを担当する先生だろ?まぁいいか……

「では、これで朝礼を終わります~1限目の準備してねぇ~」

俺が感じた違和感はやはりみんなも感じていたようだ。

「真白どっちゃったのー」

「留学?でも岩清水先生も知らなかったってヤバくな~い?」

「だよねぇ~」

 1限目が始まっても、その話題が止まらない。

 授業中だぞ?私語は慎め……なんて思わないけどさ。1限目の数学担当が何も言わないのも問題だとは思うが、それはそれで俺にとっては好都合だしな。

 柊人は数学のプリントを机の隅に置き、日記帳をひらいた。


<北斎が消えた。理由は留学。ほんとに謎めいた女だ。そーいえば、どこの国に留学したんだ?まぁいいか…でもこれだと幼馴染(?)としては薄情すぎるかな?ん~まぁいいや…>


 7限の授業が終わった。

 自由への鐘がなる。

 先生の発表から8時間近くたつのにクラスの話題はいまだに北斎の事……このクラスの奴はクラスメイト想いのいい奴たちなのか、常に話題に飢えていて、ひとつの話題が超絶長続きする馬鹿どもなのか…俺には分かりかねるがな。

「終礼はじめるわよ~」

「起立・礼・着席」

 ん?あ、そうか今日は終礼があるのか。

 昨日は集会で終われば自由解散だったから終礼の存在をすっかり忘れていた。

はぁ。自由の鐘まではまだあとちょっとあるのかぁ。

「今日お昼ごろ、警察の方から学校に電話があったみたいなんだけど、最近この周辺で変出者が増えているらしいからみんな気を付けてねぇ~!」

「変出者だって~お前の事じゃん!」

「うるせ~俺じゃねぇよ!」

「「アハハハハハハハハハハ」」

 クラス中で笑いが起きる。ただ一人俺を除いてみんな楽しそうだ。

 なにが面白いんだか……子供の茶番だな……

 記憶が無い分変なところで周りより大人な俺には何がおもしろいのか分からなかった。

「ゴホン!ゲホゲホッ…」

「先生柄でも無い事するなよぉ~!」

「ごめんごめん!やっぱ私に威厳を出すのは無理ねぇ~!よし、朝礼…じゃなくて終礼終わろうか!」

 先生もか…まだ北斎の事、動揺してるんだな。隠してるつもりかもしれないけど、俺にはバレバレだぜ……まぁ無理はないよな……

「起立・礼」「ありがとうございましたぁ~」

「終礼早く終わったけど他クラス終礼中だからチャイムが鳴るまで外でちゃだめよぉ~」

 キーンコーンカーンコーン

 自由の鐘が鳴った。帰宅部所属の俺は自由の身だぁ!


「ただいまぁ~」

 ……………

 って誰もいないか、瑞穂は部活だろうし。課題でもするかぁ……

 でも、あいつがいないだけでこの家はホント静かだよな……勉強には集中できるからいいけどさ~



「ただいまぁ~」

「お帰り」

「お兄ちゃん~お腹すいたぁ~帰宅部の誰かさんはお腹すいてないだろうけど、私は部活してきたからねぇ~」

「うるさい。余計なお世話だ!今作るから待ってろ!」

 瑞穂の発言に少し苛立ちを見せながらも、俺は夕飯づくりをはじめた。

 メニューは昨日と同じく野菜炒めだ。

「いただきます」

「いっただきまぁす~って今日も野菜炒め?」

「黙って食え!」

「はーい……」

 柊人に冷徹な目で返され、瑞穂はプイっと横を向いてしまった。

「あのさ瑞穂」

「黙って食え」

「悪かったって。で……北斎の事なんだけどさ……」

「北斎?あぁお兄ちゃんの幼馴染の? まさか告白でもするの?!」

「んな訳ねぇだろ!」

 北斎は瑞穂が生まれる少し前に引っ越して関東の方に7年弱行っていたらしく、瑞穂はまったく北斎の事は知らず、当然ながら俺と北斎との関係など知っている訳ないのである。

「で…その北斎さんがどうしたの?」

「あぁ…今日急に留学に行ってな…クラスに一言も言わずに…」

「ふ~ん。別に普通の事じゃない?あ、まさか彼氏の俺に黙ってたなんて……って事?」

「だ~か~ら!違うって、俺はあいつの幼馴染(?)なだけで、彼氏でもなんでもないわ!俺が瑞穂に聞きたいのは、留学することを留学とかの担当をする先生が知らなかったなんて事があるのかどうかだよ」

 瑞穂は少し困りながらも答えた。

「う~ん。それはあまりないんじゃない?普通は誰がいつどこに行くのかぐらいは知ってるもんじゃないの?その先生は北斎さんに黙っててって言われてて、それを残されたクラスメイトに何で言ってくれなかったの!って責められることから逃げるために言ったんじゃないの?」

「なるほど!そーいう事か!流石瑞穂だな!」

 柊人の感心した顔を見ながら、瑞穂はどや顔をした。

 さすが俺の妹だな。俺と同じ……違って出来がいいな!


 夕飯を終え。片付けを済ますと自分の部屋に戻った。パソコンを立ち上げ、ニュースの視聴を始めた。

「はぁ……今日も収穫なし…か…」

<7月14日 突然北斎が留学に行った。なにも言わずに旅立ったことはすこし違和感を覚えるが、元気に帰ってきてくれることを祈る。にしてもどこの国に行ったんだろな……    進歩はなし…>

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