第一章 「世界の始まりと終わりは紙一重」 第一話

 これは私立養条ようじょう学園高等学校に通う一人の少年のお話である。

 毎日毎日歩くだけで毛穴という毛穴から汗が噴き出す七月。

 俺、四条柊人しじょうしゅうとは今、教室にて生物の授業を受けている。

 退屈だ。帰りたい。

 そんなことを考える性格の俺は、毎日毎日退屈をしのごうと授業中に気まぐれに日記を書いている。

 そう。俺が歩んできた軌跡を語り継ぐため……

 と、突然で申し訳ないのだが、みなさんには幼少期の記憶はあるだろうか。

大抵の人はあると思われる。

 しかし俺には幼少期の記憶がない、幼少期どころか、高校入学までの記憶がない。

 その空いた時間の手がかりとなるのが、妹なのだが、妹は過去の事については一切口を開かないので、実質手がかりはゼロ。母親も父親も家には居なくて、妹曰く、海外へ研究に行っているらしい。

 そんな俺は過去の情報が知りたくて、自分が見てそうだったアニメや漫画、当時のニュースなどを見返したが、またしても手がかりはゼロ。しかし、その時見た、「一輪の花と私達」というアニメに影響され、俗にいう二次ヲタ兼厨二病になってしまったのである。


 厨二病と聞くと、なかなかひかれる事が多いらしいが、俺は楽しくやっている。

 クラスメイトは自分が厨二病だろうが、どうであれ元から見向きもしていなかったからである。

 と、まぁそんな感じだ。

 唯一クラスメイトで話すのが、幼馴染(?)の北斎真白ほくさいましろである。

 そこそこ美人で、愛想もよくて、俺と正反対に、スクールカーストの頂点にいる人物である。


 と、そうこうしてたら、六限の生物も終わり。集会の時間だ。

 ここ養条学園では、二週間に一回集会があるのである。

 普通の高校より、頻度が多く、何やら学校としての統率力を高めるためらしい。

 帰宅部の俺は一刻もはやく帰りたい主義なので、この時間は憂鬱でしかないのである。


「次は生活指導部からのお話です。お願いいたします」


 あぁ…これで終わりだ。長かったなぁ……

 そう。この学校の集会は毎回生徒指導部の話が最後でめでたく終わりを迎える。この話が終わると同時に自由の扉は開かれるのである。

「生徒指導部の石原です。今日はみなさんに登校マナーについてお話したいと思います。みなさん今朝のニュースは見たでしょうか?岐阜県の高校生が交通事故を起こして、残念ながら亡くなってしまいました…………と、このようにみなさんも登校するときは周りに気を付けるようにしてください」

 やっとだ。憂鬱な時間は終わったのである。


 学校の前の緩い坂道を風に煽られながら自転車で軽快に飛ばしていく俺。

 左手には公立中学があり、生徒たちが熱心に部活に取り組んでいる。

 そんな様子に興味を惹かれ、横を向きながら、自転車を漕いでいると……


ドガッシャあぁあぁぁぁぁん!


 前方の交差点の左にいた自転車にぶつかってしまったのである。

 帰宅部ながらなぜか筋力だけは普通の人よりある俺はすぐに意識を取り戻し、ぶつかった自転車に乗っていた女性のもとへと駆け寄った。

「大丈夫ですかぁ!!!」

 周りには誰もいなかった。助けを呼ぼうとすると

「大丈夫よ……」

 と女性が返答した。柊人はすこし安心した。

「ほんとにごめんなさい!俺がよそ見しながら運転してたから」

「ほんとに大丈夫よ気にしないで。それより、あなた養条学園の生徒よね?」

「はい…そうですが」

 柊人は、答えたあとハッ…とし集会での石原先生の話が頭をよぎった。

 これは、学校に通報されて呼び出しくらうやつだな……

 それを見た女性はからかうようにして言った。

「大丈夫よ、安心して、事故のことは学校には言わないから!その代わり一つ聞いてもいいかしら?」

 柊人はそれで罪が免れるならと、はいと即答した。

「北斎真白って知ってるかしら?」

 その名前を聞いてドキッとした。

「知っていますが、北斎さんがどうしたんですか?」

 女性は顔をそらして答えた

「ちょっとね、用事があって…… まだ学校にいらっしゃるかしら?」

「部活してるからいると思いますよ。今日は部活停止日でもないですし」

「あら、そう!ありがと、で部活停止日じゃないのに、この時間にここにいるって事は君、帰宅部?」

 女性は珍しいものをみるように言った

 仕方ないといえば仕方ないけどな……

 養条学園は部活加入率99.9%という感じで…

 よーするにだ全校生徒の中で帰宅部なのは俺一人だけだ。

 俺は少しムっとして返答した。

「だったらなんなんですか!学校では絶滅危惧種の帰宅部ですよ!」

「なるほど絶滅危惧種ねぇ~君、おもしろいこと言うじゃん!じゃぁまたどこかで!」

 そう言い残すと笑顔で坂の方へと去っていった

 なんてなれなれしい女なんだ。

 ほっぽり出した自分の自転車の所へ行くと一枚の紙が落ちていた。

なんだこれ?名刺か?

<シルフ所属 百川良子ももかわりょうこ>

 なんてシンプルな名刺なんだ。シンプルイズベストって言葉はあるけどさ、それにしてもシンプルすぎないか……

 それにしてもシルフってなんだ?どこかの芸能事務所か何かか?

 まぁいいや、この名刺は…ここに置いといたら個人情報流出とかで大変そうだし、持って帰って捨てておくか。

 俺は自転車を起こしまた軽快に…とはいかず注意深く自転車をこぎ始めた。


 それにしても、事故を起こしておいて、学校に通報どうこうを考える俺って……うん。考えたら負けだな。

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