child obesity research〜小児肥満研究所日記〜
@higo_mitsuru
第1話
その施設は、静かな山あいにあった。
校舎のような建物が一棟、隣には宿舎、周辺には400mトラックを備えた運動場、プール、屋内の土俵、マラソンコース等があり、一見すると学校のように見えなくもない。たしかに学校ではあるものの、それはただ教育を行う機関ではなかった。
施設の名前は「日本小児肥満研究所 実験センター」。子供の肥満について研究する国立機関の臨床試験場である。ここには全国から集められた数百人単位の肥満児が現在大きな問題となっている肥満の解決のための研究材料として、集団で減量生活を行なっている。
そんな施設に今日、あまり似つかわしくない少年少女たちがやってきた。
長机とパイプ椅子が並べられた殺風景な部屋に、彼らは横一列に並んで座っていた。特徴的なのはその服装で、男女ともに白のレオタードのようなものだけを身につけている。向かいの机には職員と思しき数人の大人たちが同じように座っている。
「1人ずつ自己紹介をしてもらえるかな?まだ名前と顔が一致してなくてね。右端の子からどうぞ。」
「花田リコ、12歳です。」
はじめに口を開いたのは背中のあたりまで伸びる長い髪をした細身の少女だった。机の上に出ている部分だけを見ても、長身ですらりとした体型をしていることが容易に想像できる。
「僕は廣田悠、11歳です。」
次に自己紹介をしたのは中性的な顔立ちと長めの髪型の少年だった。レオタードという服装も、彼に限っては全く嫌悪感を感じさせるものではない。
「島崎楓、15歳。」
どことなく冷たい雰囲気を感じさせる声の少女は黒のボブヘアーでどちらかといえば丸顔、リコと身長はほとんど変わらないが、わずかに肩幅が広く感じる。それでも細身であることは違いないが。
「永井光樹、14歳です。」
「君、性別は?たしか男女比は同じだったはずなんだが…」
「こう見えても男の子なんです。ちょっとわかりにくいですよね、すいません…」
そう話すのは長い髪を後ろでくくり、大きな瞳に薄い唇をした小柄な少年だった。彼を初めて見た人は、きっと女子だと勘違いするだろう。
「これで全員だね。よく来てくれました。お父さんお母さんには君たちがここで何をするかは話してるんだけど、君たちはその話、聞いてるかな?」
「はい、だけどまだちゃんとわかってはいないというか…」光樹がためらいがちに答える。
「そうだよね、ちょっと特殊なことだから。じゃあもう一回説明するね。
君たちには、ここで肥満児になってもらいます。」
もともと緊張気味であった4人の表情が、一段と硬いものになる。
「ここは肥満を研究する場所だってことはよくわかってると思う、現にあっちでは何百人もの肥満児がダイエットに励んでいる。」職員は外の運動場を指差した。
「だけどここのところ、研究に進歩がなくて、何か新しい題材を求めていたところだった。するとある研究員がこんなデータを持ってきた。
…太ることへの恐怖を覚えさせると、減量はより上手くいく、というものだ。
今風に言えばモチベーションが上がる、という話だね。私たちはこれを実験で確かめたいと思っている。だから君たちには、今ダイエット中の肥満児のみんなと共同生活を送りながら、研究所が明らかにした『太る方法』を全部やってもらう。もちろん、機関が終わればみんなのダイエットは私たちがサポートするからご心配なく。」
しばらくの間、沈黙が部屋を支配する。この状況を容認したくはないが、抜け出すこともできない。そういった感じだ
「…それじゃあ、みんなの『お友達』に挨拶に行こうか。」
別の職員が強引に切り出し、全員は部屋を後にした。
快晴の空に少しずつ分厚い雲がかかり始めた。これから始まる日々を暗示しているようだった。
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