第25話 そして…。

 ぼやけた視界に見覚えのある制服が徐々にその輪郭現わした。夢から戻ったばかりの脳を無理やり揺さぶるように急にボリュームをあげたベルの音に、重く体が反応した。探り当てた音を消し、眼を閉じ、早鐘を打ったような激しい鼓動が治まるのを静かに待った。 そして、頭の中の雲がしだいに薄れていき、騒がしかった胸の高鳴りも落ち着きを取り戻した。

 

 夢、だった?うそ。お城は?

 

 ここは…なんで、私、家にいる。

 

 えっ、どういう事?ちょっと待って。よく考えて。

 

 これが夢かも?

 

 でも、夢感がない。


 「美彩都~なに昼寝してるの?マスター来てるわよ。何か頼んだんでしょ?」


  ママの声…。


 「はーい。」


 ―えっ、マスターって?どういう事…。


「美彩都ちゃん、はい、頼まれたた羊羹。金沢にお土産に持っていくって言うから、急いで作ったよ。間に合って良かった。」


「ありがとう…。そうか。そうなんだ。」


「なんて顔してんの?マスターにそんな事お願いしておいて。どうもすみませんね。」


「いや、良いんですよ。」


「あれ、マスター、そんな時計してたっけ?ベルトのとこ蘭の花?」


「してたよ。もう何年も。でも気が付いてくれてありがと。」

 

 ―気が付かなかったな。このベルト見覚えあるんだけど。誰かがしてた。でも、なんか、いい記憶でない…。んーもういいや。


「ママ、何しに、行くんだっけ?」


「あら、やだ、何この子。お盆でしょ。急いでよ。そうだ、雨あがったかしらね。」


「ああ、そうか。お盆?夏?」


「姉ちゃん、寝ぼけてんの?」


「ん?弟?いたっけ?」

「何ボっとしてるんだよ。」

 

 弟、そういえば、いたんだ…よね。なんか、記憶がおかしい。思い出してきた。弟いた。あれ?いた?


 写真立て、これ、私じゃん。女王になった日の姿。


「姉ちゃん、ホントにおばあちゃん似だよね。」

 

 おばあちゃん?ここはいつの時代?

 

 お父さんはどうなってるんだろ?あ~わけわかんない。

 でも、お父さんは亡くなったてことか。

 

 思い出してきた。あの世界の記憶が薄くなってくる。

 

 そうだ、中新先生なら分かるかも。メールしとこ。

 

 ―目が覚めたんだな。ちょっと、ミスって、時空を行き来しすぎたせいで、なんか、変わってしまったよだ。もうすぐ、あの時の記憶はなくなるから、今の記憶が上書きされていく。このメールも消える。どっかで、何となく思い出す事があすかもしれないが。

 

 そのうち、すべて思い出さなくなるよ。

 

 美彩都は溜め息をつきながら、外へ出て、空を見上げた。

 

 空から拍手が聴こえた…気がした。


「あ、虹…。」

 

 

 あなた、辻褄があわないと思っているでしょう。

 それが夢ですから。

 もしかして。もしかして。

 今見ている世界も、

 夢…かも…ですね。

 

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不完全なフルール・ドリ・ス miyuz @miyuz0302

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