78 昔々の同人誌活動の思い出 ≪4≫



 ところで、この『昔々の同人誌活動の思い出』を書くにあたって、純文学系の同人誌という言葉を使ったのだけど、実を言うと、30年昔には、同人誌には純文学系しか存在しなかった。


 それで本当は、純文学系とわざわざ書く必要もなかったのではあるけれども……。


 30年昔には、私はライトノベルという言葉を知らなかったが、(その時代にライトノベルというジャンルがあったのかどうかも不明)、エンターテインメントというジャンルはあった。


 純文学と対比して大衆小説と呼ばれていた。


 A賞候補ともなられ名のある詩人でもあった主催者の先生は、いつも苦々しく大衆小説と言っておられたのも懐かしい。


 先生がご存命なら、会話文だらけ空行だらけのライトノベルを読んで、なんと言って嘆かれただろうかと思う。(笑)




 さて話をもどして、どうしてたった30年前のことなのに、日本全国の同人誌がなぜ純文学しか掲載しなかったのか。


 それは前回にも書いたことであるけれど、雑誌の印刷代が高額だったからだ。




 雑誌の掲載内容はというと、原稿用紙50~100枚の作品が2つと30~50枚くらいの作品が5編、あと5~10枚くらいのエッセイが10編。

 

 同人の数30人から考えて、当時としてはこれが限界の印刷費だった。




 原稿用紙100枚で、会話文と空行の多いエンターテインメント系小説だと、その字数は3万字となるかどうかだろう。


 そしてよほどの特別な事情がない限り、雑誌掲載は完結であることが条件だった。


 雑誌は年に2回の発行である。

 半年も空いて、読者が前回の話をおぼえているかどうか、いやそれよりも作者が続きを書く情熱を保っていられるかどうか。


 エタること確実の続編物の掲載は、雑誌そのものの価値を消失してしまう。いろいろな同人の想いが込められる同人誌は、ちょっとした腕試しとか暇つぶしで書いたものを掲載する場所ではなかった。


 私が在籍していた同人雑誌でも、先生が二部構成という続編の形で掲載を許可したのはほんの数作品だった。




 私はカクヨムで初めてエンターテインメント系の小説を書き始めたのだけど、初めてで思いのほかすらすらと80万字が書けてしまった。


 純文学で原稿用紙100枚を書くとなると、血を吐くような思いを味わうのだが、なぜかエンターテインメント系だと何十万字でも書けてしまう。


 純文学系の応募小説賞『文学界』新人賞が原稿用紙100枚の規定に対して、ホラーや推理小説やファンタジーの応募小説賞は300枚から500枚だ。


 読むほうの都合でそうなるのか、書くほうの都合でそうなるのか。


 これはあとで「純文学とは?」ということで述べてみたいと考えているので、ここでは深く追求しない。




 1万字のエンターテインメン系小説もライトノベルもあることは承知している。


 しかし、それらに果たして何万円もかけて、たった年に2回発行の雑誌に掲載したいのかと問われれば、躊躇される作者がほとんどだろうと思う。





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