77 昔々の同人誌活動の思い出 ≪3≫



 正直言って、お金は想像以上にかかった。


 まずは小説を書いても書かなくても同人誌在籍の年間会費。

 これは月に1千円だったか。


 そして小説を書けば、原稿用紙1枚につきいくらという掲載料。

 つまり同人誌の印刷代だ。


 これは、私がおぼえているところでは、原稿用紙1枚あたり400円だった。

 同人を辞めるころには、50円か100円の値上げの話が、いつも合評会の議題の1つになっていた。


 原稿用紙に100枚書けば4万円だ。


 原稿用紙100枚は、4万字となる。

 しかしながら、純粋な字数と原稿用紙の枚数の関係は、文章の区切りや会話文の改行をなどの余白を引くと、だいたい2割減くらいだと思う。


 その計算でいくと、原稿用紙100枚の純粋な文字数は、3万2千字。

 どんなに詰めて書いても3万5千字を超えることはない。


 原稿用紙100枚の短編小説を3作を集めて、書店で売られている1冊の本のボリュームになるというと理解してもらいやすいかな。


 まじめに年2回の発行にあわせて、原稿用紙100枚を書いていると、かなりの出費となる。


 30年昔の当時でも、そしてたぶんいまでもかなりの大金だ。

 だから、普段は30~50枚くらいの短編しか書けない。


 普段は30~50枚くらいの短編を書いて、数年に1度にお金を溜めて100枚を書く。

 私も含めて皆さん、そんな感じだった。

 そして書けば、定価で何十冊かの雑誌を買い上げるのも暗黙の了解だ。



 だからお金がかかるぶん、同人の平均年齢は高かった。


 男性だと職場を定年退職されたからという人が多く、女性もお子さんが結婚もされて独立されているという人が多かった。(私の在籍していた同人誌の敷居がかなり高かったというのもある)

 30代の私など、子どものように可愛がってもらったものだ。


 そして在籍が十年を超えて発行人となったころには、これがけっこう威張れる立場となった。当時の田舎町では珍しいような高学歴の男性たちのうえに、おおげさだけど、君臨(!)していた。(笑)




 しかしこの平均年齢の高さは、必ずしも、お金の問題ばかりではない。


 当時は、小説を書くという行為はかなり恥ずかしいものという感覚があって、男性も女性も世間的に差し障りのない年齢になってから書くという感じがあった。


 個人情報に煩いいまだと信じられない話なんだろうけれど、当時の同人誌の最終ページには、同人全員の名前と住所が(記憶が曖昧となるが電話番号も)明記されるのが当たり前だった。


 だが、そこに名前を連ねるというのは、誉れという感覚があった。

 そして自分が書いたものに責任を持つという覚悟でもあったと思う。


 お金がかかる。

 匿名では発表できない。


 そして書けば、30枚でも100枚でも、必ず完結していることが求められた。

 また書いても、主催者の先生の承諾がなければ、掲載とはならなかった。

 つまり恥をかいてボツとなる。


 そして掲載が決まっても、ゲラ刷りの段階で、2稿から3稿の見直しが求められた。


 無事に雑誌が発行されたあと、同人たちが集まって合評会となるのだけど、ここで誤字や文章の表現の下手を指摘されることは、小説に対する手抜きを認めるということで、これもまた恥をかくということになる。




 カクヨムで小説を書かれている若い人だと、とんでもないめんどくささだと思われるだろう。


 だが、小説を書くということを一生の愉しみとして捉え、70歳のいまでも書き続けられるということは、やはりこの同人誌の経験があってこそと思う。





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