74 ああ、中国の大地に自分の足で立ってみたいなあ……
コロナ禍となる前に3年半通ったカルチャーセンターの『史記を学ぶ』の講座。
講師の先生は大学を定年退職されたばかりの男性だった。
2千年前の英雄たちの息遣いが感じられるような『史記』そのものの講義もおもしろかったが、時々、講義の間に息抜きのように挟まれる先生個人の体験からくるよもやま話もおもしろかった。
現在でもそういうところは残っているのだろうけれど、先生の若い頃の中国という国は、地理的にも政治的にも、個人で簡単に旅行できる国ではない。
そういう国に<猪突猛進>というか<強行突破>というか、何度も出かけられるその行動力と情熱は聴いているだけで、こちらの血も沸き肉も踊ったものだ。
先生がよく口にされていた「現地に実際に立ってこそ、わかるものがある」という言葉を、頭の中でこねくり回した想像力だけで中華ファンタジー小説を書いている私は「そういうものなんだろうなあ」と、自戒の念を込めてたびたび思い出す。
そしてコロナ禍が収まりつつある半年前から、再び通い始めたカルチャーセンターで、『漢詩』を学んでいる。
こちらの講師は現役の大学の先生で、『史記』の先生よりもお若い。
そのせいもあるのかどうか講義が私的なよもやま話に脱線するということが、いまのところあまりない。
しかし先日めずらしく、大学生の時に中国に一人旅行された話をされた。
どのような冒険談を聞けるのだろうかとわくわくしていたが、どうやら先生は「中国一人旅から帰ってきたら、当時付き合っていた女の子がよそよそしくなっていて、別れざるを得なくなった」ということを話されたかったようで……。(笑)
それでも、20歳そこそこの大学生が、中国語がほとんど話せない状態で中国一人旅を思いつき、実行する情熱と行動力はいったいどこからくるのだろう。
そしてついにこの<カクヨム>でも、そういう行動力と情熱を持った人を見つけてしまった。
三国志の世界に魅せられて―大陸の土を踏んだら沼だった
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895063343
この神崎あきらさんは、まだお若い女性のようだ。(私から見ると、カクヨムで書かれている人は皆、お若いのだけど……)
『三国志』にドはまりして、会社勤めで溜めたお金で、一人で中国に行っては『三国志』ゆかりの名所旧跡を見てまわっておられる。
中国に知り合いがいる研究者の先生と違って、神崎さんはまずは現地でその場所をうろうろと探すことから旅の苦労は始まる。
読み物として、もうそこからおもしろい。
そしてこれは中国あるあるなのだけど、名所旧跡にはゆかりの人物をとんでもなくデフォルメしたどでかいコンクリート製の像が立っている。それだけならいいのだけど、そのあとまったく手入れしないものだから壊れかけたものも一杯ある。
そしてテーマパークを作りかけて放置した、破壊されたとしか思えないような場所というのもある。
私はそういう写真を『史記を学ぶ』の先生に見せられて、「ああ、中国の人はなんてことを……」と思ったのだけど、神崎さんはそれもまた中国人の<三国志愛>として肯定的に捉えられている。
そういう視線が、中華ファンタジー小説を書いているものとしてすごく新鮮だ。
ああ、中国の大地に、私も自分の足で立ってみたいなあ……。
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