44 一夫多妻(美女は財産・Ⅰ) ≪6≫



 司馬遷の『史記』の講座に通っていた。

 講座の始まりには、その日に学ぶ『史記』の口語訳が配られる。




 初めて『史記』を通しで読んで、いろいろと知ることがあったのだけど、読むたびに私の心にひっかかる記述があった。


 それは、活躍した武将や文官に、朝廷から与えられる褒賞品目録の部分。


 司馬遷は記録方の文官であったので、こういうところの記述は詳しい。


 領地とか金や銀、絹の反物などに加えて、必ず、楽団員とか奴婢とかが30人とか50人とか。


 楽団員が必ず含まれるのが面白い。


 歌舞音曲の類は、人の心を癒す。

 スマホやCDで気軽に音楽を楽しめない時代は、自分のためにそして来客をもてなすために楽団員を自前で持つというのは、生活の上で必要なことだったのだろう。


 話は元に戻して、褒賞品の中に<人>も含まれていたということ…。


 屋敷内で働く使用人を現代のように募集して雇うのではなくて、『史記』の時代は物と同じようにあげたりもらったり、そして買ったりした。


 記憶が薄れてきているのだけど、さすがに小説の中のようにダイレクトに<美女>という記述はなかったように思う。


 しかしながら、褒賞品の楽団員や奴婢の中に、歌や踊りの上手な、そして文字通りみかけの美しい<美女>も、当然ながら含まれていただろうということは想像に難くない。


 <人>の中でも、<美女>はその需要から考えるに、金や銀や貴重な反物に匹敵する価値があったということだ。


 そのためには、常に蓄えておかなければならない。


 美女三千人のハーレムや後宮は、皇帝の子作りの場所だけではない。

 褒賞品としての<美女>を蓄えておく宝物庫の役割も果たしていた。






『史記』は庶民の暮らしぶりを記録するために書かれたものではないので、町民や農民、名もない兵士、そして奴婢や女性の生活についての記述はほとんどない。


 だからこそなおさらに、褒賞品となってしまった後の奴婢や<美女>の扱いはいかに?と想像し、胸が痛む。


                

                    (続く)



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