34 宦官 ≪4≫


 

 宦官になるための男性器切除の手術には、いろんな方法があったらしい。


 あそこの部分だけを切り落としたり、全部、取り除いたり…。

 麻酔もなかったし、消毒という概念も薄かっただろうから、その手術で命を落とすことも多かったと思う。


 そして、手術が上手くいって命を取り留めても、その後も大変だ。


 家族で大腸がんの手術を受けたものがいるのだが、手術の時に、神経やリンパを傷つけることもあり、そうなると後遺症が残ると説明された。

 人の体というものは、切り取って傷口が塞がったら、あとは元通りの健康体……、とはならないのだ。



「おちんちんを切ったら、絶対に、一生、排尿障害に悩まされるぞ」と想像していたら、あるところで、宦官は常に漏れたおしっこの臭いがしたという記述があって、やっぱりと思ってしまった。





 また、心の不調も起きることだろう。


 女性の更年期は、何年もかけて徐々に減っていく女性ホルモンが引き起こす心身の不調だが、その不調の1つに意味もなくイライラするとか、気分が落ち込むとかいうのがある。


 宦官の手術は、ある日、突然に、男性ホルモンが絶たれるのだ。


 声が甲高くなり、髭が薄くなって体が丸みを帯びる、という見かけだけの変化だけではない。

 精神的なダメージも大きいに違いない。


 そのうえに、宦官という身分に世間からの侮蔑もある。

 主人に対しては滅私奉公の世界だ。

 性格にゆがみが出てきてもしかたがない。


 ライトノベルの中華ファンタジーを読んでいると、ものすごくかっこよく爽やかな若い宦官がでてきて大活躍したりするのだが、これは稀有の存在だと思う。





 世界では、一夫多妻を認める国や宗教はいまだにあるが、王侯貴族のハーレムを維持するための宦官制度は、中国の清王朝を最後に消滅した。


 ある日突然に性器を切り取られて奴隷として働かされることから、世界の男性は解放された。


 しかし、知らない人も多いと思うが、女性の性器切除の風習はいまだに根強く残っている。

 これもまた、宦官制度と同様に消滅する日が来ることを祈りたい。


 



 

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