28 生贄にまつわる古代中国の故事 

 


 殉葬から始まって生贄とか人柱の話を書いていて、昔々の話を思い出した。


 この『私、中華ファンタジーをまじめに勉強します』の紹介文に、私と古代中国との出会いは、ある日思いついて通い始めた『史記』の講座のように書いたが、厳密に言うと少々違う。





 私の父は読書家で、そして子ども相手にお話を語るのが上手な人だった。


 幼い私を寝かしつけるのに、絵本を読み聞かせるのではなく、いろんなお話を語り聞かせてくれた。日本昔話のようなものからイソップやアンデルセンや宮沢賢治、はたまた歌舞伎や浄瑠璃や落語のサワリ、そして父が大好きだった史記や三国志。


 だから私は、韓信の股潜りとか、諸葛孔明の三顧の礼などを知っている幼稚園児だったのだ。(笑)




 その父が語ってくれた話の中に、生贄にまつわる中国の故事がある。


 昔々の中国のどこかの国の村の話だ。


 その村の近くを大きな河が流れていた。

 そして、氾濫を繰り返しては、住民たちを苦しめていた。


 ある時、その村の占い師が、「村の美しい女を生贄に奉げよとの、河の神様のお告げがあった」と言い出した。

 それで、しかたなく、その村では、毎年、河の神様を鎮めるために、美しい女を一人、河に投げ込むようになった。


 そのうちに、生贄に自分の娘が選ばれるを恐れた村の住民たちに、占い師が絶大な権力を揮うようになったのも当然の成り行きだろう。


 村には、都から役人が赴任しては来る。

 しかし、彼らも占い師を怖れて生贄の儀式を黙認し、そして任期が過ぎれば都へと帰って行く。


 そしてある時、一人の役人が新しく村に赴任してきた。

 彼もまた、河の神様を鎮める儀式に立ち会った。

 そして、いざ生贄を河に投げ込む時になって、その役人は生贄の女の顔を覗き込んで言った。


「河の神様は美しい女を所望されていると聞いている。

 だが、おれにはこの女が美しいとは思えない。

 おい、占い師よ。河の神様に、この女でよいか聞いて来い」


 そう言うや否や、役人は占い師を河に投げ込んだ。

 その後、占い師は河の神様の返事を持ち帰ることもなく、そして、長く続いた生贄の儀式もこれで終わりとなった。





 昔々に父より聞かされた話だけれども、今でも鮮明に覚えている。

 幼いながらに、この役人のような賢さを持ちたいと思ったものだ。


 どなたか、この故事の出典をご存じであれば教えてください。


 



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