「相席にて…」
低迷アクション
第1話
友人の旅先での話である。電車の相席に揺られる彼の前に、
大き目の紙袋を抱えた女性が座った。車内は混み合っており、4人座りの
相席も友人と向かい合って座る彼女で満席となった。
女性は袋を膝に乗せようとするが、重いモノが入っているらしく、持ち上げては、
足元に置く事を繰り返している。向かい合う友人としては構わないのだが、
紙袋が床のスペースをとる事に、女性が申し訳ないと感じている様子だった。
そんな袋の取っ手を持ち、出来るだけ、自分の方に寄せている女性が気の毒に思えた。
しばらくして、電車が駅に止まり、自身の隣席が空いた。
彼は、自分の荷物を置き、女性に声をかけた。
「良かったら、その荷物をこちらに置きませんか?誰か座るようなら、
すぐに上の棚に置きますから。」
友人の声に女性の視線が動く。相席の人物を直視するのは何かと
憚れるので、目を逸らしていたが、なかなかの美人、しかし何処か儚げな印象の女性だ。
彼女は少しためらっていたが、やがて、ゆっくり微笑み、
「ありがとうございます。」
とお礼を述べ、掴んでいた紙袋をこちらに差し出す。受け取った友人は両手でそれを持ち、座席に乗せる。
“ガチャッ”
金属音が響き、袋の中身が少し見えた。
「?」
何か赤錆びた丸い輪のようなモノだ。更に確認しようとした友人だが、こちらを見つめる
女性の強い視線に気づき、それを止めた。結局、目的地に着くまで友人はスマホに集中するフリをして、女性の視線をどうにか躱し続けた。
彼女は友人の目的地の二駅前で、袋をしっかりと持って降りた。
友人は、その体験を私(著者)と共通の友人に話した。黙って聞いていた
彼は女性の降りた駅名を聞き、顔をしかめた。
「“丑の刻”のメッカだな。」
「?」
「そこは、丑の刻参り…あの夜中に、藁人形を木に打ち付けて、
誰かを呪う行為だ。それが実際に多く目撃されている土地だよ。」
「しかし、それだけで…」
「赤錆びた、丸い輪が袋に入っていたんだろ?五徳だよ。鍋とかの下に敷く奴だ。
あれに蝋燭を挿して、頭に乗っけるんだ。漫画とかで見る蝋燭を
布で頭に蒔くだけじゃ、蝋が垂れて、呪いどころじゃない。
まぁ、本気で誰かを呪うなんて奴に熱さは気にならないかもしれないが…
でも、あくまで推測の話だ。別に…」
「いや、多分当たってる。」
「えっ?」
「あの女は…彼女は袋から決して目を離さなかった。俺の方もしっかり見ながら、
瞬き一つしていなかった。」…(終)
「相席にて…」 低迷アクション @0516001a
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