第6話 帰郷前に

 診療所まで馬車で送ってもらい、明日は朝から来ることと、集落への手土産として安いものでいいので果物酒を数本用意して貰う約束をした。リリアージュは馬車から降りると、表側の端にある従業員専用の出入り口から中に入った。


 そして夕食時に事のあらましを簡単に夫妻に説明した後、暫く診療所での仕事が難しくなるかもしれないことを伝えた。しかしリリアージュが伝えるより先に話が来ていたみたいで、二人共特に驚いた様子も無ければ、逆にしっかり頑張る様に励まされた。


 部屋に戻ってからは、ニコルにも同様に説明すると『アイツの知り合いはロクなもんじゃないな』などの感想を漏らすも、明日実家に行く件で付いてきて欲しいことを頼むと『うん、いいよ』と二つ返事で了承してくれた。

 その後手早くシャワーを済ませ、簡素な寝間着に着替えると、明日手早く身支度が出来るようにと、予め着ていく服や持っていく荷物などを準備する。


 明日は家出した娘が実家に帰るという心情はあるけれど、昨夜はまた別の理由であまり熟睡できていないこともあり、ベッドに横になり目を瞑っていると、知らない間に深い眠りへと落ちていった。


***


「――ということになりましたが、どうしますか?」

オズワルドは執務室で書類と格闘するフィンに本日の出来事を、簡潔に要点を絞って報告した。

「どうするかって、おまえは行くんだろ?」

「えぇ、個人的にも大変興味深いのと、ドロシーもかなり乗り気なので」

「そうか」


「フィンの方の進展は?」

「これと言っては特にだな……何よりあのヴィルヘルの残した資料の多くは、少なくともこの近辺の国の文字じゃない」

 フィンは机に指示を付いた左手で、頭を抱えながら苦悶する。


「というと?」

「この国よりずっと遠くの文字か、あるいは人間の文字ではないか……ということだ」

「それはやっかいなことで」

「おかげで館長らの悲鳴を久しぶりに聞いた気がした」

「さすがは変人と謳われただけの事はある方だね」


 ゼンからの報告によれば、あの妖精と対話する少女が、それらの文字を読むことが出来るかもしれないと言っていた。

 部下の失態と言える昨日の件で、しばしの協力関係にはこぎつけている。そしてこの件が片付いた後にも、その能力を借りられる状況を作ることが出来ればよいが、

(問題はどう、話を持ちかけるかだな)

 何か策を講じるには、それなりの情報が欲しい所だ。


「まぁだからこそ明日中に結果が出るとは思えないから、一日俺が抜けたところで支障は無いと思うが……どう思う?」

「俺に聞いたところで、フィンはもう答えを決めてるんだろ?」

「まぁな」

 そう答え、フィンは今日中に終わらせておきたい書類へと、再び目を向け取り組み始めた。

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