第3話 眠りの仮設

 その後リリアージュ達三人はすぐに、執事長によって二階にあるジルフォードの寝室に案内された。広い部屋も基本的には豪華な造りではあるが、先程と比べると比較的落ち着いた色合いや調度品で纏まっていた。それでも一人用としては大きすぎると思うベッドを含めた家具に金銭感覚に違いを思い知らされた。


 そして例の少年――十二、三歳程度に見える赤毛の少年であるジルフォードはベッドに静かに眠っているようだった。

「さて、個人的には普通に眠っている様に見えるし、何らかの魔術が使われた気配も得には感じないな――二人はどう思う?」

 直ぐにジルフォードの現状を確認したオズワルドは、リリアージュとドロシーにもそれぞれ意見を求めるように投げかけた。


 リリアージュの目にも特に変わった様子も見受けられず、普通に眠っている様にしか感じられない。しかしながら自分をここに連れてきたと言うことは、リリアージュの知っている方面での知識と知恵を借りたいが故だろう。

「私の目にも普通に眠っている様にしか見えません。そして近くには、妖精の姿はありません――ただ」

「ただ?」


「――この現象が“夢”や“眠り”にまつわるものだとしたら、“夢魔”が原因かもしれません」

「夢魔?」

「はい、ただ今の段階では可能性の話でしかなく、また本当に夢魔だった場合……今の私には交渉手段がありません」

 その存在を互いに確認してからでないと対話すらできない――なのに相手は夢の中、つまり本当にリリアージュ自身にはお手上げな状態なのだ。


 ――夢魔とは他者の夢に干渉することのできる存在の総称だ。そこから、人にとっては夢を介してお告げを与えたり、悪夢から守ってくれたり良い影響を与えたり事柄によっては歓迎される存在もいるが、逆に悪夢を与えたり、夢に干渉することでその者の思考に影響を与えたりと歓迎されないことをする存在もある。

(今の私には難しいけど、先生なら? 爺様達なら??)


「って、ドロシー何をしているんですか!?」

「何って、今の状態を科学的に分析しようかとね」

「科学的に?」

「ドロシーの行動はいつもの事なので、あまり気にしないでください」

 そしてドロシーはと言うと、大事そうに持って来ていた大きなトランクを開け、何やらよく分からないが、無数の小さなランプの付いたヘンテコなヘルメットの様な物と折り畳みの四角い機械と小さな四角い箱、そしてそれらを繋ぐ何本かの紐をテキパキと慣れた手つきで組み立てていく。そしてヘンテコなヘルメットをあろうことかジルフォード少年の頭に被せていた。それはなんとも奇妙な光景に見えた。

 そし“いつもの事”と言っていることもあり、なんだかオズワルドは諦めているような様子だった。


「……?」

 すると折り畳みの四角い機械の片面とヘンテコなヘルメットに付いている無数の小さなランプがそれぞれ白と青い光を灯した。

「それ何ですか?」

「これは測量機とコンピューターって言うんだけどね、自信作なんだっ。まぁ、コストの問題でまだまだ市場に出せる物じゃないんだけど、普及したら世の中きっと便利になるだろうな~」

 そう語るドロシーの目はどこか別の次元を見ているかのように思えた。


「こうなると少し時間がかかりそうだから、ちょっと席を外すね」

「えっ、どこに行かれるんですか?」

「用心の為ちょっと屋敷全体に結果を掛けようと思って」

「そうですか、分かりました」

「じゃ、行ってくるね」

 そう思っていたら、オズワルドは執事長を連れてあっさりと部屋を後にした。

 リリアージュは執事長に対して、正直大事な坊ちゃんを、得体のしれない装置と共に初対面の二人に任せてもいいのか疑問に思ったが、あえて触れないことにした。



 ドロシーの方は未だにコンピューターと言う名の四角い折り畳みの機械と睨めっこしていた。

「うん~、脳波事態も正常で、話にあった“悪夢にうなされる”って感じでもないみたいな?」

 眠り続けるというこの状態は好ましくはないが、少なくとも悪夢にうなされ続けているのではないことに、ほっと安堵した。


「ねぇリリ、あなたは妖精と対話が出来るんだよね?」

「そうですけど……信じてくれるんですか?」

 先程の熱心な研究者顔のドロシーとは異なり突然の真剣な面差しに、リリアージュはおそろおそろ尋ね返してみた。


「そっか、いいな~」

「えっ?」

「私ね、小さい時に一度だけ妖精にあったことあるんだよ」

 そう言って、ドロシーは当時の事に思いを馳せる。


「ずっと昔の話――」

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