第2話 面倒事と興味

***


 昨日のあらましを簡単に主から聞き、確かに興味深くも感じたが、それはソレ。

 そんなことに構っていたって、今ある仕事は終わらない。ただでさえ忙しいというのに、追加で別件がやってくる始末。


 だというのに主はというと、一応仕事ではあるものの、お忍びで町に出かけるなんて……。

 しかも側近であり護衛を務めているはずの自分を差し置いて……。まあ一人ではなく、主の友人であり、腕の良い魔術師殿も一緒だったのだが、どうも腑に落ちない。

 とは言ってもその日は、自分は別件での調査があったのだから仕方のないことなのだが。


 そして、今日も今日とて、厄介な案件が舞い込んできたのだが、さすがに主が二日続けて書類から逃げることは叶わない。

 その為今現在、主の目と耳の代わりに、厄介な案件の元となっている所へやって来たのだ。


 そもそも、こんな雑用他の部署だろ……と思うのだが、基本的には国に無駄な予算は無く、人権費も馬鹿にならない。

 だからこそ、他の部署では手に負えない案件から、誰も気に留めない様な小さな案件まで、陛下と国を支える影として仕えている主に、厄介事類である様々な質の案件が集中的に回ってくるのだ。


 まあ、それは単純に他では手に負えないというだけでなく、解決に尽力する上で、主の身分や権力、お人柄といった所が深く関わってもいるのだが。



 今朝方亡くなった元考古学者。彼が生前集めた貴重な資料や現物は、金品にはならないが、見る人が見れば、非常の価値のあるものばかりである。

 そして生前、それらのいくつかは自分が無くなった際に国へ譲渡する約束となっていた。


 だからこそ、本当なら別の学者や、術師らが押収兼分析等を行った方が良いと思うのだが……、最近不穏な術の気配が立ち込めているとかで、彼らの手が空くことはなく、仕方なしにこちらに回ってきたのだ。


 とは言っても、今は俺一人なので、出来ることも限られており、とりあえず今日は下見と、優先的に必要そうなものの選別、運搬といったところだ。

 そして世の中、面倒事というものは常に付いて回るのが普通らしく、元考古学者の家は王都の中でも町外れと、職場である城から割と距離もあり、移動だけでも面倒極まりない。


 加えて、なぜか家の前には数十人程度の見物人。おまけに家の中は故人の縁者らによって家宅捜索中ときた。本当は譲渡の書状もあるので、自分が割って入っても問題ないと言えばないのだが、必死こいて金目の物を探す輩と接触するのは……、

(面倒極まりない……)

 本来、こんな手間で面倒な仕事よりも、面白い事の方が大変興味惹かれるのだが……。


 そんなことを考えつつも、出来る限り真面目にせねばと思いなおしつつ、さてどうやって取り掛かろうかと周りを見渡すと、雪の様な白が目に付いた。

(十五、六歳くらいか?)

 見物人から離れる為、門手前の木陰からその姿を見ているので後ろ姿しか見えないが、目立つ白銀色の髪は昨夜の主との会話を彷彿させる。


 なんせ、今まで女性などに興味を示したことが無く、浮いた話の一つも出ない主が、「興味深い」などと感想を漏らしていたのだから、自然と自分も興味が出てくるのは自然なことだろう。

 そして、そう思ってしまったのだから、ついつい少女の動きを観察してしまう。


 少女は門の前の人々の様子と家の周囲を確認した様な行動の後、家の塀に沿って歩き出す。

 少女との距離を開けつつ、まだ昔の癖が抜けていない為、音を殺しながら距離を置きつつ後を付けしばらく様子を見ていると、一瞬見失ったかのように錯覚した。

 塀の一部が壊れていたようで、雑草が生い茂り分かりにくいものの、身を屈めれば小柄な人が一人通るくらいの穴があった。

 塀の外であれば自分が見失うはずがないので、おそらくこの穴から中に入ったのだろう。


 この穴は自分が通るにはやや狭い。一方、塀自体は少しざらつきや凹凸があるので、こちらを利用する方が無難だろうと、コンコンと軽く手背でノックして塀の強度を確かめ、ヒョイっと塀を登る。

 そして少女の姿を確かめると、少女は身を屈めたまま、何かに話しかけている様だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る