第4話 出会いと交渉

***


「いやだからね、裏口とか見つからなければ……って問題じゃないのよ」

『でもそこから出てくる人知ってるよ~』

『いつもこそこそしてるよ~』

「こそこそって……それは……中の人がそれを使って出る分には大丈夫かもだけど、逆は違うのよ……」


 たぶん、妖精達はリリアージュ直に現場を見て欲しいのだろうと思う。なので、この話はいつまでたっても平行線でしかない様子の為、正直このままでは先に進めそうにない気がしてきた。

 そんな時だった。

「なにかお困りですか?」

 不意に後ろから声を掛けられた為、ピクッと反応してしまう。


 例えるなら――なんだか、こそこそイタズラしていた時に、後ろから親に怒られるような感じだ。まぁイタズラをしているわけではないのだけれども、今の自分は良くて一人で可笑しな独り言をしている変わり者、悪くて不審者と捉えられても仕方がないのだ。

 振り返ると、自分と同い年か少し年上くらいの二人の青年が立っていた。



 一人はプラチナブロンドの髪に透き通るような深い青の瞳で、立ち位置的に声をかけてきた方だろう。もう一人は、栗色髪に、翡翠色の瞳をした人だ。

 どちらも女の私から見ても、サラサラの髪に綺麗な瞳であり端正な顔立ちで羨ましい。加えて二人とも軽装をしているものの、生地の良い服や身なりから、身分のある方たちであることは容易に想像できた。


 それと同時に、妖精達相手に会話していたとはいえ、自分以外には独り言にしか聞こえないあの会話を聞かれていたと思うと、羞恥心が込み上げてきて、顔が赤くなるのが分かる。

「えぇ~っと、あの……」

 リリアージュは傍から見れば不審な独り言を言う場面を既に見られてしまったことも相まって、どんな失態を犯したとしても今を乗り切り、今後この人達と関わらなければ、今後も平穏な日常でいられるはずと思い、

「あなたたち、この人達に頼んでも無理だったら、私が現場に行くことだけは諦めてね」

『ちぇ~』

『ん~』

 小声で妖精達に話しかけると、やや不服そうな反応が返ってきたが、そのまま話を進める為に、声をかけてくれた二人に向き直って改めて、

「声をかけて下さりありがとうございます」

 両手を前にして軽く会釈をして話しだす。


「信じてもらえるかは別ですが、実はここに居る妖精達が無くなってしまった《バラ》を探しているんです。そこで私をその《バラ》があった所へ案内したいそうなんですが、どうやらそこはこの門の向こうみたいなので、私は立ち入れないと話していたところなんです……」


 どうせ妖精なんて信じないだろうと思っていながらも、他に策を思いつかないリリアージュは、ありのままを説明した。その説明に二人とも驚いたような顔をして、

「君は妖精が見えるのか?」

 と最初に声をかけてきたと思われる青年が尋ねてきた。

「はい、見えます。全てではないと思いますが……この通り、一応通り会話もできます」

「それが本当なら凄いですね」

 肯定すると、今度はもう一人の青年も口を開く。

「妖精の事は信じて下さるのですか?」

「簡単には信じられないが、今の君の言葉と、声をかける前の言動を踏まえると否定するのもな……」


 その言葉に正直、頭ごなしに否定してくるような人でないことにリリアージは少し安堵した。妖精に関してだけということではないが、世の中、見えないことは信じない人もいれば、見えなくてもその存在を認識している人もいる。この二人は後者なのだと思った。そう思ったからこそ、これはチャンスだとも思った。


「えぇっと、私リリアージュと言います。こんなことを頼める立場も身分もありませんが、もしも今お時間に差しさわりが無ければ、お二人の付き添いの元で構いませんので、妖精達に案内させていただけませんか? 勿論無理にとは言いませんので」

 こうなったら、なるようになれと言う気持ちで特に最後の一文を早口で言ってみた。勿論この二人が、この門の先を自由に歩き回れる身分または役職であることを願って。


「いいよ、面白そうだし。」

「あぁ……やっぱりダメですよね……って、えぇ??」

「いいよ、ただし、俺には見えない妖精の存在を証明することが出来るのなら」

 そう言う口角を吊り上げながら、青い瞳は好奇心という光を帯びている様に感じた。

「仕方ないですね……」

 もう一人からは付随してため息交じりの声も聞こえ、こちらは苦労人なのではないかとも思った。

「リリアージュと言ったな?」

「あっ、はいっ」

「俺はフィン、でこっちはオズ」

 とフィンと名乗った青い瞳の青年は簡単に自己紹介してくれた。

 リリアージュは、「妖精の存在証明ね……」と小声で呟きながら、少し考えを巡らせる。


 妖精たちが探しているのは、光りを表すプリムの名を冠することが出来るかもしれない妖精が生まれる特別な花だ。だとするなら……、

「正直、私には見せる力はありませんので、今すぐに証明することは難しいですが、《バラ》を見つけた後でなら、証明できると思います」

 まだ確信は持てないが、そう二人に伝えた。

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