第3話 戸惑いと接触
そもそも《姫様のバラ》って何かと思ったら、《姫様が大事にしているバラ》ではなく、これから《妖精の生まれる花》というのがあり、それが今回バラの花であり、色・形等から、光りを表すプリムの名を冠するにふさわしい妖精が出てくるかもしれないとの事だった。
彼らにとってプリムの名はとても大事なものらしく、今現在その名を持つ妖精が彼らの中に居ないことから皆の期待が高まっていた矢先の事だったようで、各地に分かれて探していたとの事だった。
(《バラ》と言うのだから、花壇とか庭園辺りかな?)
と思いリリアージュは妖精達に声をかけ、まずは元々咲いていた場所に案内してもらうことにした。
『『こっち、こっち~』』
と案内してくれる妖精達について歩いていくと、公共の場として一般開放されている区画から出ようとしていることに気付き、
「ちょっ、ちょっと待って!もしかしてまだまだ先?」
『『うん、そうだよ!』』
どう考えても一般人でしかないリリアージュが足を踏み入れていい場所は限られている。そしてそれは妖精には適応されないのだ。なぜなら、妖精には人間のルールや法が適応されない。それだけでなく、彼らの様な小さな妖精や力の弱い妖精は普通の人には姿は見えず、ましてや見えたとしても、声を交わすと言うことは出来ないのだ。
そしてそれらの姿を捉え、声を交わすことが出来るリリアージュが普通ではないということは、まさにこの事が由縁なのだ。
だからこそ、妖精である彼らがこの先に進んで行ってもなんら不自然でも無ければ、誰も咎める者はいない。けれども人であるリリアージュは違うのだ。ここから先へは場違いどころでは済まされないことは容易に想像できる。
だからこそ、リリアージュに出来ることといえば限られてくる。
「ごめんね、コレから先は…私は入れそうにないかも……だから……」
よければ、バラが無くなってしまった前後の状況を詳しく聞かせてくれる? と続けようとして、
『え~?なんで?なんで?』
『一緒に探してくれるんでしょ?』
「そうじゃなくて、ココから先は一般人でしかない私は登城できないんだけど……」
『裏口あるよ~』
『見つからなければ大丈夫だよ』
「あなたたちはそれで大丈夫だけれども、私はそうはいかないものなの……」
裏口とか、見つからなければいいという問題ではないのだけれども……などと話すも、城内の宮廷へと続く門の手前で、誰もいない空間に向けて独り言を呟いているだなんて、よそから見れば不審者極まりなく思う。幸いにも物理的な距離により門番からは会話の内容は聞こえていないらしく、今の所咎められてはいないどころか、まだ気付かれていないらしいことが不幸中の幸いなのかもしれなかった。
***
昔はあったらしいのだが、先々代の時代に結ばれた和睦協定以降、隣国との戦争や多種族間との争いもみられず表面上は平和であるリンフィルド王国。他国・国内に限らず小さな問題が無いわけではないが、ここ最近はとある事件に頭を悩ませていた。
その事件とは、子どもの誘拐である。しかも誘拐犯となる人物の目撃は無く、子どもだけが居なくなったとの事で、中にはそれが《
二日前に居なくなってしまった子どものことを聞く為、友人であり宮廷魔術師であるオズワルドと共に朝から町に来ていたが、居なくなった日に特に変わったことは無かったとの情報以外何も得られなかった。
オズワルドに、今回の事件と《妖精の取り替え子》の関連性について尋ねてみたが、「妖精は専門外です」との事だった。確かに妖精など、相手によってはこちらからではどうしようもないが、もしこの事件に多種族や他国が関係するとなれば外交上の問題にて話が一層ややこしくなるし、下手すれば想像したくもない事態が待ち構えている可能性が大いにあるのだ。
かといって、これといって手掛かりが無い以上今日はこれ以上どうすることも出来ないでいた。その為その後は、軽く町の視察を終えて昼を少し過ぎた頃に城の宮廷にある職場に戻ろうとしていた所だった。
「あなたたちはそれで大丈夫だけれども、私はそうはいかないものなの……」
城内の宮廷へと続く門の手前で、誰もいない空間に向けて独り言を呟く風変わりな少女が一人いた。
(門番達は何をやっているんだ?)
と思ったが、彼女との距離は自分たちの方が近く、門番らの方が少し遠くといった具合からして向こうは聞こえていないのだろう。
「いやだからね、裏口とか見つからなければ……って問題じゃないのよ」
呟きの内容からしてやや物騒な気もしなくもないが、まるで見えない誰かと会話をしているかのようにも感じられる彼女の言葉には若干焦りを感じられつつ、
「こそこそって……それは……中の人がそれを使って、出る分には大丈夫かもだけど、逆は違うのよ……」
そして若干困っているようにも感じた。
明らかに言動――特に言葉が怪しいが、このまま立ち往生されるのも若干迷惑なので、早急に――とは言っても、出来る限りは事を荒立てたくないので、穏便に立ち去ってもらうこととしよう。
その為、隣にいるオズワルドと少し打ち合わせをした後、
「なにかお困りですか?」
と軽く声をかけた。
少女は不意を突かれたように、ピクッと反応しこちらを振り返る。振り返り様に、光の加減で雪の様な白さにも感じる長い白銀の髪がふわりとなびく。白い肌に、菫色の瞳がなんとも神秘的だと思った。
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