第2話はじまりの日

 練習は始まった。

 が、僕はどうしていいか全く分からないので

 ひたすら楽器庫の前でウロウロしていた。


「おーい、渉くん。」

 優しげな聞いたことのない声が僕を呼んだ。

 

声の主は野田光先輩。僕の所属する

 トランペットパートの高校2年の先輩だ。

「何してんの?そんなとこでうろうろして」

「いや〜、何していいか全然わかんなくて、、」

「じゃあもっと早く言って!

 分からわかったらすぐ聞いてや!

時間もったいないから!」

「はい、、。」

 少し怖い。素直にそう思った。

「君の楽器はこれね。この一番小さいやつ。

 丁寧に扱ってや!頼むで」

「はい。」


 僕はケースから楽器を取り出した。

 ケースを開けると銀色に輝く楽器の姿があった。

「きれい...」

 声に出てしまった。あまりに楽器の輝きがきれいで感激した。

「渉くん!早く練習して!」

「はい....」

(チッ、いちいちうるさいな、感動が台無しだよ、、、)

 空気の読めない先輩に感動に水を差され、仕方なく練習を始めることにした。


 僕は初心者なので、先輩や経験者の同級生とは別の部屋でひたすら基礎練に取り組む。

 これが凄まじくさみしい。別に1人でいるのは構わないのだが、練習をしていると隣の部屋で練習している先輩達の笑い声が聞こえてくるのだ。さみしい。


 と言っていても仕方ないので練習を続ける。


「パー、プー、ブフォ」


 お世辞にも綺麗とは言えない音が鳴っている。そして唇は

「やめて!痛いヨゥ!」

 と悲鳴をあげる。

 かなり苦しい。だが、僕にとっては楽器を吹けることだけで幸せであったから、気づけば

 時計は7時を指し外は真っ暗になっていた。



 今までこんなことはなかった。

 いつも時間が過ぎるのは本当に遅く感じていた。早く過ぎろ、早く終われ、そうとしか思っていなかった。時間が早く過ぎると思うほど打ち込んだことがなかったのだ。初めて、打ち込めることに出会った。


うれしくて、たまらない...。

今夜はよく眠れる気がする。神さま、

吹奏楽と出会わせてくれて、ありがとう。







やっと、僕の物語ははじまった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とある男子高校生の恋愛譚 @tyutayaeikou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ