第1話 山村渉と吹奏楽

午前5:30。お決まりのショスタコーヴィッチ

で起床する。

田舎の朝は早い。起床するやいなや、まずは畑の野菜を収穫し朝飯とする。そして適当に顔を洗い学校へ向かう。

僕の名前は山村渉。県立山中南高校に通う高校一年生だ。今日は、この春入部した吹奏楽部の初めての活動日。僕の人生、これまでこれといったことは何もなかった。

家族は全員公務員。金には不自由はしなかったし、家も広くも狭くもない普通の家。

彼女など作れる容姿でもなかったし、いわゆる"陽キャ"というのも騒がしいから毛嫌いしていた。


その結果が

あまりに平凡でつかみ所のない僕だった。

そんな僕が、中学の時興味を持ちながらも

躊躇った吹奏楽に今手を出すことにした。

高校ならなぜかやって行ける気がしたからだ。そして僕は少しばかり期待しているのだ。自らの人生がこれで動き始めるのではないか。と。つまらない人生からおさらばできるのではないかと。



そして、いつも通り学校の授業をこなし、

やっと放課後だ。教室では様々な声が聞こえる。

「私さぁ〜、今日カフェ行くんだよね〜」

大声で女子が喋っている。

いまいち、いつも誰に喋っているのか

分からないなと思いつつ僕は教室を後にした。

活動場所の音楽室へ着くと、そこにはたくさんの部員がいた。初対面の人ばかりだったが、中には顔見知りもいてそのうち一人が話しかけてきた。

「あっ、渉〜久しぶり!」

聞き慣れた大声が自分の名前を呼ぶ。

知らない人の前で名前を呼ぶのは

やめてほしいものだ。恥ずかしい。


大声の主は水瀬萌。彼女は僕の小学校時代の同級生で、この学校には付属中から入学していた。

「久しぶり。」

「ほんまに久しぶりやね〜渉は変わってないね。」

「お前は割と変わったな。髪とか。」

「そう〜?ちょっと嬉しい」

「ちょっとは余計だ」

「あっ、点呼始まるよ。急いで!」

「おう」

慌てて僕は位置についた。

そうして、点呼が始まった。



次々に各パートの点呼が進む。

「高校フルートパート全員います!」

「中学サックス中村さんが早退です!」

「高校パーカス全員います!」

「座ってください。」

部長の挨拶が始まる。

「部長の山下です。

今日は新一年入りのはじめての

個人パート練習です。

先輩はしっかりと

一年生を見てあげるように。では、

起立!

お願いします!」

「お願いします!」

部屋に声が響き渡る。

まだ、春真っ只中の4月のある日。

僕の初めての吹奏楽部の活動が始まった。

春の風は、こころなしかあたたかかった。

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