運動会は緑団!?

キーワード『運動会』『お化け』『かき氷』


雲1つない青空、普段より高めの気温に紫外線が照り付ける晴れの日。そんな今日は運動会。生徒たちは暑い熱気の中、それに負けないぐらいの熱量で、さながら紅白歌合戦のようだ。まあ歌わないけど。

そんな青春キッズたちを支えるのが先生方で、私のような養護教諭はケガや夏バテ、はたまた熱中症で倒れる生徒が万が一出てきたときに備えて、救護テントと保健室にそれぞれ1名ずつ配置している。この高校では養護教諭は私ともう一人の男の先生、名護先生なのだけど、


「自分、応援もしてあげたいので!」


という生徒さながらの熱量(?)で、救護テントの方には名護先生自ら対応してくれている。熱血教師名護、意外にも女の子人気が高いのはここだけの話である。

幸いにも、先生方のスケジュール管理や生徒たちへの体調管理の徹底、生徒たちの自律ができているからか、見学者を除いて救護テントの段階であまり使っていないらしいのだ。

おかげで空調のきいた室内でゆっくり座って待機ができているのだけど、なんだか寂しい気もしている。校庭とは少し離れた位置にある保健室からは競技が見えることはないため、放送の音で判断するしかないのだ。

夏バテの一人や二人ぐらい出てきても、なんて、そんな風によくないことを考えつつなんとなく、窓と風に邪魔されて聞こえにくい放送の音に耳を傾けて、今は赤が勝っているなぁなんてウトウトしながら思っていると、ドンドンと窓を叩くような音がする。気になって窓を見ると・・・・・・


「きゃあぁ!?」


急に見えたのは白い布のようなもの。思わず驚いて大声をあげて、椅子から飛びのいてしゃがみ込む。

びっくりした・・・お化けでも見たのかな・・・。そう思いながら恐る恐る顔を上げる。するとそこには、誰もいない。ゆっくり窓際に近づき窓を開ける。すると、


「さつきちゃんだいじょーぶ?」

「わっ、・・・大神くん、どういうことかな? あと、弥生先生って呼ぼうね?」


心配半分いたずら半分っていう笑みを浮かべて窓の下からひょっこり姿を現したのは、袋入りのかき氷を持った大神大我くん。この学校の保健委員の3年生で、5日前の運動会の練習中に腕を骨折して今日は救護テントで見学兼、名護先生のお手伝いなはずだけど、何故だかここにいる。それと、お化けかと思ったのはどうやらギブスである。びっくりさせるなぁ。


「え、正門の前でかき氷売ってたから、さつきちゃんも食べるかなって」

「そういうことを聞いているんじゃなくてね? 勝手に学校の外に出ちゃダメだし、大神くんは名護先生のところでしょ? あと、せめてさつき先生って呼びなさい」

「えー、だってどうせ向こう仕事ないし、なごっちつまんないし、さつきちゃんがいい」


まったく聞く耳を持たない大神くん。私は舐められているのか、相変わらず呼び方は変えてくれない。まったく。

というわけで、ピシャリと窓を閉める。忘れずにカーテンも。直後、ドンドンと窓を叩く音。はぁ。


「さ・・・き・・・ン・・・あけ・・・!・・・つきセンセ、あ、あいた。 ごめんなさい!」

「わかればよろしい。 でも、名護先生のとこに戻りなさい? 先生は忙しいの」

「でも、さっきウトウトしてたし、暇そうだったよ? よだれ垂れてたし」


この子、よく見ていらっしゃる。というかよだれ!?そう思って口を触って、机の上を確認するけどどちらもキレイ。ハッ!


「嘘だよ~ さつきセンセあたふたしてた」


やられた。この子にいつもこうしてからかわれては、保健委員の間でネタにするのだ。それにしても今回ばかりは恥ずかしい。先手を打っておかねば。


「他の子には黙っててね? 大神くん?」

「じゃあ部屋入れてよさつきセンセ、あと何味がいい?」

「・・・いちご味」

「メロン味しかないけどね じゃあ秘密にしとく」


気が付けば、じゃあどうして聞いたのよ。と突っ込むことも忘れて、かき氷に手が伸びていたことはバレていないといいけど。


それから二人でかき氷を食べつつ、団長たちが開会式で演武を披露しただとか、大玉転がしで学校新記録が出ただとか、赤団の手作りゆるキャラ「赤牛とばいちくん」が爆走しただとか、午前中のハイライトを大神くんから聞いていた。話が上手な大神くんに、思わず、それで? それから? と話を催促している、この時間を楽しんでいる私がいた。でも、


「あ、さつきセンセ 俺借り物競争だけ出るからこの辺で! 見に来てね!」


と、かき氷をかきこんで、イテテと頭を押さえながら校庭に走って行ってしまった。

やっと嵐が去ったか・・・なんて思ったけれど、急に一人に戻されて静かになったことに不満すら覚えている。いけない、いけない。


そうして40分ほど経っただろうか、小さく聞こえる放送が、借り物競争が始まると告げていた。見に来てねとは言われたものの、ここを空かすわけにもいかないし、動きたくとも動けない。いやいや、どうして見ること前提なんだ。そう一人で考えていると。


「さつきセンセ! 早く!」

「大神くん!? いや、先生はここにいなきゃ!」

「いいから! 俺ら負けちゃう!」


そう言って私の腕を引いて駆け出す大神くん。ああもう、私スリッパなんだけど!?

というか、負けるっていうぐらいだから借り物競争のお題に私が関係しているってことだけど、養護教諭なら名護先生でいいじゃない。あと、高校生、足早い・・・ついていくのがやっと・・・。そう文句を思いつつ笑っている私がいる。こういうのもいっか、青春っぽくて。そしてそのまま校庭まで引っ張られて、そのまま一着でゴール。笑って喜ぶ大神くん。


『さあ、赤団が一着でわが校のマドンナ、弥生先生を連れてきました! お題とは何だったのでしょうか!?お名前と一緒にどうぞ!』


と、放送委員の女の子がインタビューをし始める。確かに私も気になるところ。


「3年2組、大神大我です! えっと、お題は【二人だけの秘密がある相手】です!」

『おおっと!? ということは、大神くんと弥生先生の間にはナニかがあると!? 気になりますね!? 教えていただけるなんてことは!?』


待って、雲行きが怪しくなってきたんだけれど!? ギャラリーもおおお!とどよめきだってるし、思わず大神くんを睨むけれど、当人はどこ吹く風である。まずい。保健室でウトウトしていたという恥ずかしいことを言われてしまう。そう思った矢先、


「いや~まあ、二人だけの秘密なんで、俺もバレたら困るから言えません!」


サラッと受け流す大神くん。そこで私も安心するけれどそれも一瞬で。


『残念~! じゃあ、弥生先生に聞いてみましょう!』

「ええっ、と・・・先生もなんのことかさっぱり・・・・・・」


はて、大神くんにとってバレたら困ることってあったかな? というかギャラリー男子たち、ブーイングの嵐はやめてくれ? 大神くんは不満げな顔であっかんべーなんてして・・・って、


「ああ!」

『おおっと!? 思い出したようですよおおお?』


一気に盛り上がる歓声。青春キッズノリノリである。でも、


「秘密ですっ! べーっ」

『弥生先生からあっかんべーがでた!? これはこれでいいのか!?』


こればっかりは、教えてあげられないんです。だって同じ、緑団ですから。

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3つのキーワードで書く短編集 ゆーき @Yu_ki_chaR

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