エピローグ






   エピローグ





 数ヵ月後。




 秋文は一足早く日本に戻り、日本のサッカーチームに入った。足の怪我もよくなったようで、少しずつ試合にも出るようになっていた。


 千春は、仕事の都合で帰国の時期が少しだけ遅くなってしまった。それでも、引っ越しの準備や仕事の引き継ぎなどを急いで終わらせたのだけれど、帰国をしたのは5月のゴールデンウィーク頃だった。




 帰国の日は、たまたま秋文もオフになったようで、空港まで迎えに来て貰えることになっていた。

 


 「けど!!なんでいないの………?」



 空港のドアを抜けたら秋文が待っていて、感動の再会で抱きつく。なんて事を想像していただけに、ショックは大きかった。



 「もう秋文どこに行ったんだろう………。」



 そうひとりで呟いてキョロキョロしていると、バックに入っていたスマホが震えた。

 秋文からの電話のようだ。



 「秋文!もう着いたよ?」

 『悪い………ファンに見つかって今、車の中にいるんだ。悪いけど駐車場まで来てくれないか。』

 「そうだったんだ……ごめんね。今から向かうね。」


 

 大きい荷物をゴロゴロとひいて、聞いた駐車場の場所まで移動して探し始める。

 けれど、秋文の車はなかなか見つからない。困り果ててスマホで助けを呼ぼうとした時だった。


 すると、不意に後ろから誰かに抱きしめられてしまい、千春は驚いて「キャッ!!」と小さな悲鳴をあげてしまう。

 すると、そこには眼鏡をかけた秋文が、「遅い。」と言いながらもニヤリと笑っていた。



 「え?なんで秋文がここに………。」

 「駐車場の場所、逆。いくら待っても来ないから迎えに来た。」

 「ファンの子は………?」

 「今はオフだからいいだろ。それに、俺に恋人いるのはどこでも話してるし。見られて困ることはない。」

 


 そういうと、千春が持っていた鞄等を持って、スタスタと歩き出してしまう。

 ぶっきらぼうだけど優しい彼の背中を見つめる。 やっと彼の隣に帰ってこれた。

 そう思うと、胸がキュンとしてしまう。



 「何やってんだよ。早く行くぞ。」

 「うん………秋文っ!」



 千春は、秋文の隣まで駆け寄ると、秋文の顔を見上げた。



 「どうした?」

 「ただいま、秋文。」

 「………おかえり。待ってた。」



 恥ずかしそうにしながらも、千春を見て微笑みそう言ってくれる秋文がいとおしくて、千春は秋文の腕に飛びついた。

 それを嫌な顔もせずに許してくれる彼を見つめながら、秋文の体温を感じながら、千春は秋文の部屋へと帰る道をドキドキしながら歩いた。





 「お邪魔します………。」

 「おまえの家なんだから、違うだろ。」

 「あ、そうだよね。ただいま………。」



 数ヵ月ぶりの秋文の部屋。

 秋文らしい、生活感が漂うこの部屋が、これからは千春の部屋にもなるのだ。



 「荷物、おまえの部屋に置くぞ。」

 「あ、ありがとう。また、あの奥の部屋使っていいの?」

 「あぁ……これから、いろいろ揃えていこう。」

 「うん。そうだね。」



 アメリカに行く時に置いていたものは処分したので、ガランとした空き部屋になっているはずだ。

 どんな部屋にしようか、そんな想像は帰国する前によく考えていた事だった。


 そんな風に思いながら、その部屋に入る。

 と、そこは全く違う部屋になっていたのだ。



 「え…………。これって………。」



 そこにあったのは、空き部屋ではなく、どこかのモデルハウスのような立派な家具や小物が置かれていたのだ。

 木の香りがする木目調の家具。そして、所々には緑やピンク色の小物があった。

 花瓶にはもう見れないと思っていた桜の小枝があり、綺麗な花が咲いていた。



 「おまえの部屋、こんな感じだっただろ?だから、準備しておいた。……ダメだったか?もし、気に入らなかったら、変えてもいい。」

 「そんなことないよ!とっても素敵………可愛いよ。秋文、ありがとう。嬉しい。」



 半分泣きそうになりながら、千春はお礼を言うと、秋文は頬を赤くして照れながら微笑んでいた。


 部屋の中をゆっくりと見て回る。

 彼がひとつひとつ選んでくれたのだと思うと、感動してしまう。


 そして、仕事用のテーブルの上に、何かが2つ並んでいた。

 プレゼントのようで、ラッピングまでされている。



 「秋文………これは?」

 「おまえの誕生日プレゼントだよ。」

 「え?2つも?」

 「それは、俺たちが離れていた時の分。買っておいたんだけど、会えなかったから。この間も、お前が、帰国するなんて知らなかったからな。」



 秋文は、会えなかった間も千春の誕生日を忘れることなく、そしてプレゼントまで準備してくれていたのだ。


 感動のあまり泣きそうになりながら、手前よひとつを手に取る。

 ゆっくりと開けると、そこにはピンクゴールドの腕時計が入ってた。



 「前に、おまえからこの腕時計もらっただろ。そのお礼。」

 「………まだつけてくれてたんだね。」

 「ずっと付けてる。」

 「ありがとう。」



 秋文の腕には少し古くなった黒の時計があった。大切に使ってくれているのか3年経っても、光っているように見えた。

 それだけでも嬉しいのに、秋文はそれ以上の事を千春にしてくれる。



 「こっちも見ていい?」

 「あぁ。」



 先ほどよりも大きいものだった。

 丁寧に開けていくと、そこにはキラキラと光るものが入っていた。



 「これって、ティアラ?え………。」



 秋文は何も言わずに、そのティアラを取って千春の頭に付けてくれる。

 そして、それの姿を見つめたあと、額にキスをしてくれた。



 「そして、これが今回の誕生日プレゼント。だけじゃないけど。受け取ってくれないか。」

 


 ポケットから出したもの。

 それは小さな小さな箱だけど、夢を見続けていたもの。

 秋文が開けてた箱の中には、先ほどのティアラよりも美しく華やかに輝く宝石がついた指輪が入っていた。



 「秋文………これって………。」

 「俺と結婚してくれないか。まだお互いに忙しくて大変な時期だけど。……だからこそ、おまえを守っていきたいし、おまえに支えてもらいたいんだ。いつも泣かせてばかりだったけど、これからは今まで以上に大切にするから。」



 先程の、恥ずかしさを見せた顔はなく、彼はとても真剣な顔で千春を見つめていた。


 さきほどのティアラは結婚式用に彼が選んでくれたのだろう。

 そして、この部屋も千春がこれから過ごすために秋文が準備してくれたものだ。


 そんな空間でのこの言葉。

 これほどに素敵なプロポーズはあるだろうか。

 離れていた間も、ずっと見ていてくれた。そして、昔もずっとずっと見守っていてくれた。


 そして、これからの未来も約束してくれる。

 大好きな人からのプロポーズ。



 千春はポロポロと泣きながら、秋文にゆっくりと近づいてそして、千春から彼を抱き締めた。



 「ありがとう、秋文。私を秋文のお嫁さんにしてください。」

 「……っっ、千春。ありがとう………。絶対に大切にするから。」



 秋文の香りと桜の花の春の香りがする部屋で、秋文と千春は今までで1番強く抱きしめあった。


 これからの幸せな未来を想像し、そして目の前の愛しい人を幸せにしたい。

 そう願いながら。






               (おしまい)

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強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました 蝶野ともえ @chounotomoe

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