サイド非リア充:その涙には理由がある

 二星にぼし君とラインを交換した日の夜。

 僕は自分の部屋で、今日一日を振り返っていた。

 今日の僕は、二星君とラインを交換できて、一日中上機嫌だった。

 ライン交換しただけで一日上機嫌とか、つくづくチョロいな、僕。

 そして僕は、スマホでラインアプリを開き、家族と公式アカウント以外に新たに登録された二人の名前を見て、思わず頬が緩む。

 その時、ふいに二星君からメッセージが送られてきた。

 何事かと思い、僕が二星君との個人チャットを開くと、


二星:『あなたをグループに招待しました』


 そんな機会的なメッセージが送られてきていた。

 僕はそのメッセージを見て、そのグループとやらに参加してみる。

 するとそのグループは、二星君と菊池きくちさん、そして僕という三人で構成されたチャットだった。

 どうやらこのグループというのは、複数人でメッセージのやりとりができるらしい。


二星:『日曜の朝十時頃、駅前に集合で!』


 グループラインで二星君の簡素なメッセージが送られてくる。

 それに対し、菊池さんから『了解!』という文字と、可愛いらしいネコのイラストが描かれたスタンプが送られてくる。

 それを見て、僕もとりあえず了解スタンプを送っておいた。


 こんななんでもないやりとりが、僕にとってはものすごく新鮮で、すごくムズムズする感覚だ。

 ああ、なんか、ここ最近の僕って、すごく幸せだなぁ……。

 そんなことを、しみじみと感じるのであった。


 ◇◇◇


 僕がもくもくと夕飯を食べていると、母親が僕に話しかけてきた。


「どうだった、今日の学校は」


 なんでもない、いつもの会話。


「別に、いつも通り」

「そう……」


 僕がそう答えると、母さんは少し寂しげな表情を見せる。

 僕の両親は、僕が学校でぼっちであることを知っている。

 そしてそれを、言葉にはしないが、ものすごく心配しているのだと思う。

 それならせめて、今日の出来事は伝えておくか……。


「あのさ、母さん」

「なに?」

「僕、日曜日遊びに行くから……」

「あら、またアニメか何かのイベント?」


 母さんは当然のように僕にそう訊いてくる。

 僕は普段、アニメのイベントや、ラノベやマンガを買いに行く時くらいしか外を出ない。

 母さんは当然、今回も僕がそれで出かけると思ったのだろう。


「いや、違う……」


 僕は母さんの言葉を、否定した。

 別に、僕が日曜日にクラスメートと遊びに行くことは、わざわざ伝える必要はないのかもしれない。

 でも僕は、そのことを伝えたいと思ったのだ。


「僕、クラスの人と遊びに行くんだ」


 すると母さんは大きく目を見開いて、とても驚いた顔をした。

 隣で黙って会話を聞いていた父さんも、驚きを隠せないようだった。


「え、典之のりゆき……。それは本当なの?」

「うん……」

「そう、良かったじゃない……。気を付けて行ってきてね」

「うん……」


 その瞬間、僕は訳も分からずに、泣いてしまった。

 自分でも理由はわからない。

 だけど、涙があふれて止まらなくなってしまった。


「どうしたの、典之? 大丈夫?」


 母さんが心配して僕に訊いてくる。

 僕は涙を抑えながら、


「うん……。だい、じょうぶ……。ねえ、母さん、父さん……。僕さ、もう、きっと、大丈夫だから……。だから、安心してよ……」

「ええ……。そうね……。典之、よく頑張ったわね」


 母さんはそう言って、僕にハンカチを手渡してくる。

 僕はその時、泣きながら思い出していた。

 今までの、苦い思い出を。

 いつも楽しそうに話してる誰かに嫉妬していたあの日々を。

 一人ぼっちで昼食をとる寂しさを。

 先生にすら名前を覚えられていない悲しさを。

 忘れ物をしても誰にも借りられないもどかしさを。

 そして、それらと同時に、思い出す。

 体育の時間に優しく寄り添ってくれた二星君を。

 保健室で他愛もない話をした菊池さんを。

 数々の記憶が重なって、そして、両親の驚いた先ほどの顔を見た瞬間、僕は言葉で表現できない感懐を抱いて、胸が熱くなって、泣いてしまった。

 何かが大きく変わったわけじゃない。

 今日だって僕は誰かに嫉妬していたし、ぼっち飯だった。

 それでも――。


 今までとは確かに違った今日という一日が、僕にとってはすごく大切に思えた。

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ぼっち主人公はハーレム系主人公に勝てない 澤田晃太 @chari44

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