エピローグ 人が神になるまで

 バタリと本が倒れた。その本を自らが拾うことはなく風がこちらに寄せてくれる。けれどこの風も私の魔法によって操られている。この国も世界も私が支配し始めて二百年は経っただろうか。かつての皇帝の面影を残しつつ、天界との結界をなくし、共有で使う土地を作った。それによりこの国と天界が戦うことは殆どなくなった。余る刺激は共通決闘場で発散する。今のところうまく行ってる。私は落ちた本を手に持ち、なんとなく廊下を歩いてみる。以前よりも重くなった衣服や冠が自分の立場の重さを教えてくれる。それを感じるたびに私は遠い世界の彼を思い出す。人間に愛情を抱いたのはあれが初めてだった。もちろん神から世界を守ったときも愛していなかったわけではないのだろうが、あれはどちらかというと信じていた、という方が正しい。私は人間の生きようとする力、強さを信じて守った。それに後悔はしていない。あれがあったからこそ、私は彼と出会えたのだろうか。さえない上に鈍感で不器用。男としては最底辺かもしれない。……でも私は確かに彼を

 愛していた。

 そよ風は私の肌を撫でまわす。心地がいい。ふと、手元の本をよく見た。少し気になったのだ。その本には【人が神になるまで】と書いてある。著者は田中翔太。驚いた。あいつ、小説家になったのか。本当に。それにこの題……もしかして、私のことか?少しだけ本を開いて中身を見てみる。やはり、私のことだ。見たり聞いたりしたことがこと細やかに繊細に描かれている。それに、あれもうまく使ってくれているようだ。

「……それにしても神か……ふ、」

私は頬を緩ませて厳かに歩いた。




【人が神になるまで】

田中翔太

 これは人間の女の子が死後魔女となり、罪に喘ぎながらも人々を救った彼女のお話し。人を殺し、陥れた愛しの人は人間を救い、やがて【神】と謳われるようになった。これは彼女を愛した俺が書く俺の最後の本である。



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死者の国にて生者が行く 赤月なつき(あかつきなつき) @akatsuki_4869

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