crash(異常終了)



「────慧央、お前進路どうするんだよ?」


 ハッと顔を上げると、そこには千賀がいた。机で頭を抱える俺を、いたずらっぽい笑みを浮かべて見下ろしている。どうせこいつは俺をバカにしているのだ。自分がクラスでも上位の成績を保っているからって。


「進路とか言われても困るよな。俺は九九もろくに言えないのに。……どこの高校にも行ける気しねぇ」


 わざとらしくため息をついて、目の前の進路希望調査に目を落とした。

 第一から第三まで、進路を書く枠がある。大体の人間はここに好きな高校を書くし、確か家業を継ぐから高校には行かない……みたいなことを書いたやつもクラスにいた気がした。

 だが、成績も悪く人生へのやる気もない俺は、こんな風に人様に「俺はこれをやりたい!」みたいなことを言おうとは全く思えない。

 つーか、ないし。なんならこれからずっと世世さんと依呂葉の家政婦みたいな暮らしが出来たらそれでいい気もする。


 千賀は、そんな俺を見透かしたように目を細めた。


「お前の特技は家事だもんな。……依呂葉ちゃんの稼ぎで食う飯はきっと美味いと思うぞ」

「最悪な言い方すんな。あー……マジでどうしよう」


 頭をひねってひねってひねりまくっても、思い浮かぶのは依呂葉のことばかりだ。

 唯一の肉親。……そりゃ、養ってくれてる世世さんには感謝してるけど、やっぱり一番は依呂葉だ。


 依呂葉のために、生きることが出来たら。

 何も悩むことはないのに。


「依呂葉ちゃん、確か破虹師やるんだよな」

「ああ。今も既に軍に出入りしてる。……俺と依呂葉が世世さんに引き取られるまで、依呂葉は軍で育てられてたらしいからな。世世さんも軍属だし」

「破虹師。危険な職だよな。虹化体のアラームが鳴って、オレたちは避難する。その間に戦う。……慧央。お前はやめとけよ。向いてなさそうだからな」

「うるせーな。やってみないと分からないだろ──」


 軽くそう言って千賀を見上げて、絶句した。

 千賀の紫の瞳は、突き刺すほど冷たく厳しかった。


「とにかく破虹師はダメだ。オレはお前に死んで欲しくない。お前が死ぬくらいならオレが代わりに死んでやる」


 千賀は時折、こんな風に真剣な目をすることがある。

 どうして下の名前を頑なに隠そうとするのか、一年中マスクを外さないのか、夏でも無駄に厚着をしているのか……千賀に関しては分からないことしかない。

 ただ、その剣幕の裏には、俺にはない強い覚悟がある気がして……何も言えなくなってしまうのだ。


「…………たまに変な事言うよな、お前」


 額を汗が流れるのを感じながら、何とかそう返す。

 そこで始業のチャイムが鳴って、千賀は自分の席に戻った。

 次の教科は国語。俺は国語はまあ人並にできるので、別に聞かなくてもいいだろう。板書をとるふりをして、進路希望調査を見つめる。


 依呂葉のために生きる。やはり俺にはそれしかないのかもしれない。

 依呂葉の復讐を手伝う。……それを俺の生きる目的にしよう。


 俺は破虹師になる。

 千賀にガミガミ言われるのはダルいから、言わないが。


*・*・*


(慧央……ん! ……起きてく……い!)


 総帥が地下牢を出ていってから、どれくらい経っただろうか。数年が経過したような気もするし、数秒しか経っていない気もする。

 先程から耳の中でぐわんぐわんと響いていた声が、いよいよ無視できないレベルまで強まってきた。目を開ける。夢を見ていた気がした。内容は、思い出せない。多分どうでもいいような内容だったのだろう。


 血溜まりに映る俺の瞳から赤みはほぼ消え、黒いままだった。というか、何故まだ生きながらえているのだろうか。目を抉られ、体の中はグチャグチャなのに。


(それが、貴方の天恵……らです)


「天……恵? 俺に?」


 総帥も確かそんなことを言っていた気がする。

 依呂葉は産まれた時から未来を見る天恵を持っていたが、その兄である俺はからっきし。記憶に薄く残っている両親はそれで俺と依呂葉の扱いに差をつけることはなかったものの、今更そんなことを言われても意味が分からないだけだ。

 だって俺は天恵を使った記憶なんてないし、どんな力かさえ想像がつかないのに。


(全く、貴方と……人は。私との約束を……れてしまうなんて、酷……ですね)


 声は女性……いや、まだ小さな女の子のものだ。ノイズが混じっていて何を言っているかはっきりしないが、恐らく悪口を言われている。何も言い返さない俺に、少女は仕方ないですねとでも言うように息を吐いた。


(核を傷……られ、心も閉ざ……貴方は、今は持ちこたえ……はいえ、も……ぐ死ん……しまいます。だから、寝ては……ません)

「寝るなってそんな。雪山みたいな」

(とにかくです)

「もう全身痛すぎて頭がおかしくなりそうなんだよ。第一、俺が生き残ったって……何をするっていうんだ? この世界で」


 自慢ではないが、俺は元々何も出来ないクズだ。

 両親もいない。

 千賀も山田さんも、……依呂葉も死んだ。


 俺が破虹師を志したのは、なんとなくだ。

 依呂葉の復讐を手伝いたいな……と思ったから。

 可愛い依呂葉に傷ついて欲しくなかった。

 俺が手伝えば、依呂葉の気持ちが晴れる日が一日でも早くなるかもしれない……と思った。

 そうすることで、進路の選択から逃げた。

 そういえば、俺の高校進学のために千賀は勉強を教えてくれたっけな。俺はそれを裏切り、破虹師になった訳だが。


 依呂葉。

 人生になんのやる気も見いだせなかった俺が、唯一夢中になって追いかけることが出来た存在だった。

 ……自分勝手だな。依呂葉のためとか言って、本当は自分のために戦っていたのかもしれない。でも全部無駄だった。


(そんなことは……ありません)


 急に声がクリアになった。残った左目がじわじわと温かくなる。


(慧央さんは│わたくしを助けてくださいました。そして私との約束を……受け容れてくれた)


(今は疲れているだけです。本来の貴方なら、やるべきことが分かるはず。この状況を打破する策を、貴方は既に知っている。……そしてそれはもうすぐ叶えられる)


(……│嚆矢こうしくんも困った人ですね)


 死に際には幻聴が聞こえるのか、と聞き流していた俺は、最後に付け足された一言に再び目を開けた。


「嚆……矢? それは弓手総帥の名前……だよな。アンタ一体」

(ふふ、私の名前は──)


 その瞬間、脳内の声をかき消すほどの金属音が鼓膜を貫いた。続いて何本もの鉄柱が地を跳ね回るような音と振動。


 とうとう総帥が戻ってきたのか?

 いや、これは檻を│破壊した《・・・・》音じゃないか? 総帥は牢の鍵を持っているから、こんなことする必要はないはずだ。


「慧央、ギリギリ間に合った……か。時間がない。目を開けろ」

「……っ!」


 驚きに目を見開いた俺が見たのは、総帥ではなかった。

 土煙の中からまず現れたのは、ばさばさとはためく大きな白衣。人物は雪のように白い髪をシニヨンに結い上げ、意志の強い紫の瞳でこちらを睨みながら、そう言ってのけた。


 世世さんだ。


 長い足は振り抜かれた形で静止しており、蜺素で出来た堅牢な檻を│蹴破った《・・・・》のだろうことが察される。


 この牢には蜺刃でも斬るのは中々難しいくらいの強度はあるはずだが……と言葉を失っていると、自らがこじ開けた入口をつかつかと潜った世世さんは、俺から生えている蜺刃に右手をかけ──


「あンのバカめ。いつまでも慧央に粘着しているから突入が遅れたではないか」

「いっ────た!!」


 勢いよく抜いた。

 内臓が引き攣れる痛みに顔をしかめる。世世さんの白衣も血に濡れた。しかし気にする様子もない。

 右手の蜺刃を傍に放り投げながら、左手で白衣の腰元を払う。白衣の中には腰に固定された何らかのデバイスと、そこにぐるぐるととぐろを巻くホースのようなものがあった。慣れた手つきでホースを手に取ると、カチリとスイッチを押す。


「世世さん、なんで」

「目までやられているか。本当に応急処置レベルになりそうだな」


 鈍い音を立てて振動するホースは、1度唸ると、勢いよく水を放出し始めた。ホースはのたうつ蛇のように暴れ、壁に床に軌跡を描く。それを世世さんは片手だけで押さえ込むと、俺を透き通るような瞳でじっと見た。

 ……これ、見たことあるぞ。機械や蜺刃などを洗浄するためのアレだ。中には工業用の虹素が詰まっている。

 間違いなく、俺という個人に向けようとしていい代物ではない。


「待っ……」

「これは虹素だ。お前の命を繋ぐ、な。──鼻から吸うと痛いぞ」


 もちろん、反論は許されなかった。世世さんはにぃっと凄絶な笑みを浮かべる。

 次の瞬間には、体の輪郭が分からなくなるほどの水圧に襲われ、本当に意識を失ってしまった。


*・*・*


 目が覚めると全身濡れ鼠になっていた代わりに、体の痛みがかなり軽減していた。いや、鼻から吸ったので鼻は痛いが。

 腹部の穴はおおかた塞がり、余計な出血は抑えられている。右目も治ってこそいないものの痛みはなくなった。牢の至る所から水が滴る音が聞こえる。


 起き上がり、なるほどなと目を伏せる。

 核が傷つくと虹化体は死ぬが、それは全身に虹素を供給する電源のような役割が核にあるからだ。

 そこが壊れたのなら、外部から無理やり虹素を継ぎ足してやればいい。──そんなことを本当にやってのけてしまうとは、世世さんの頭は相当イカれてると言わざるを得ない。


「……世世さん。アンタ本当に馬鹿だろ」

「何がだ。あっさり頭を撃ち抜かれた挙句、弓手にいいようにされていたお前には言われたくないが」

「そうじゃねえだろ。世世さんも……びしょ濡れじゃねえか」


 目の前で仁王立ちを続ける世世さんの体も、俺と同じようにぐっしゃりと濡れていた。顔に張り付いた髪からボタボタと水が垂れている。唇を噛んだ。


「これ全部虹素なんだろ? 俺の体も治ったし、そうなんだろうな」

「治った訳ではない。まともな設備で│核の修復・・・・をしないとすぐに」

「アンタは虹素不耐症だ。……公開演説会の会議をした時だって、虹素にやられて倒れてた。こんだけの濃度の虹素を浴びて、無事でいられるはずがない。前の虹素中毒だって治ったばっか──いや、もしかするとまだ治ってなかったかもしれないよな。アンタのことだから」


 虹素不耐症。

 地上に絶えず満ちる毒──虹素が体内を犯すのを留めるための蜺素が、体内に上手く定着しない病気のことだ。


 人間は産まれてすぐに、病院で蜺素製剤を体内に打ち込まれる。そのお陰でこうして空気を吸ったり吐いたり出来るようになるのだ。虹化体に傷をつけられたりしたらその限りではないが、一般的な生活を送る上での虹素の害を無効化することが可能になる。


 しかし、蜺素には生後すぐでないと上手く生着しないという欠点があった。だから、地下で生まれ蜺素を打ち込まれずに生きてきた環は、蜺素製剤を接種させられていても持って数年だっただろう。


 世世さんは地下民ではない。しかし、地上の人間にも一定の割合で、蜺素が定着しない人間が出てくる。彼らは虹素への免疫が全くないか極わずかで、一般人なら耐えられるレベルの虹素濃度でも体に不調を来たしたり──最悪の場合、死ぬこともある。


 そんな世世さんが、虹化体の体が回復するほどの濃度の虹素を浴びて、無事でいられるはずがないのだ。


 しかし世世さんは笑みを崩さない。


「……それがどうした。ワタシはここを死に場所と定めている。何より……慧央。お前のために死ねるのなら悪くない」


 その姿に一瞬、目の前で死んだ千賀が重なって見えた。

 俺は思わず立ち上がり、世世さんに詰寄る。冷たく整った笑みは少しも揺るがず、それに気圧された俺は一瞬言葉に詰まった。


「ふ……ふざけんな! 千賀も山田さんも依呂葉も死んだ。俺は大罪虹化体になった。……それで世世さんまで死ぬ必要がどこにあるんだよ! どうせ俺は……もうすぐ戻ってくる総帥に殺されて終わりだ。そうされるべきだ。虹化体だから。でもアンタは違うだろ」

「だから、なんだと言うのだ。お前が人間だろうと虹化体だろうと、関係ない。ワタシはお前の……」


 世世さんはそこまで言うと、顔を歪めた。これまで見たことが無いほどの悲痛さを滲ませている。

 例えるなら、欲しくて欲しくてたまらないものが目の前にあるのに、懸命に伸ばした腕がショーケースのガラスに阻まれている幼子のような……


「……おい、もしかしてもう体が」

「馬鹿が。そうだとしてもお前の目の前で倒れるほど愚かではない」


 世世さんは言いながら両腕を俺の体に回すと、──強く強く体を抱きしめてきた。細い体のどこにこんな力があるんだと言いたくなるほどの強さは、治りかけの体に痛みをもたらすが……不快では、なかった。


「──ワタシはお前の母親、だからな。……しかし、腹を痛めた子でもなければワタシの年齢はまだ25だ。世の母親のような、愛情ある触れ合いなんて出来なかった。いや、言っていないだけでひどいことも、たくさん、してきた」


「お前は幼くして親と記憶を失い、孤独となった。依呂葉は唯一の肉親だ。それに縋ってしまうのは…………痛いほどによく分かる。でもな、慧央。ワタシだってお前の家族なのだ。母親は、どんな形であれ子供に生きていて欲しい。なんなら今から軍をやめて、山奥に小屋を立てて、お前を一生匿って暮らしても……いい」

「世世さん」

「愛しているよ、慧央」


 なんだかこんな状況なのに、ぐっと目が熱くなって、こらえた。……世世さんがこんな優しいような、切ないような言葉を掛けてきたのは初めてだ。


 いや、初めてではないかもしれない。


 俺の記憶が再開した、中学一年生の春。あの日も世世さんは俺をぎゅっと抱きしめて、こんなことを言ってくれた気がする。

 じゃあ、それから今までずっと、世世さんはこの悲痛な顔を隠して生活してきたということだろうか?

 俺は依呂葉を傷つける前に……世世さんを深く、傷つけていたのか。


「……ごめん、世世さん。俺、多分間違っていた」

「気付くのが遅い。ワタシにとってお前はたった2人しかいない家族の1人だ。……何かする時は必ず相談しろと、あれほど言ったのに。結局お前は1人で突っ走り、こうなった。世話が焼けることこの上ない。──うっ……」


 突然世世さんは呻き声を上げ、俺を突き飛ばした。

 2、3歩よろめいて止まった俺と対照的に、世世さんは牢の鉄格子にぶつかってよろよろと座り込んでしまう。駆け寄ろうとする俺を静止して、世世さんは牢の外に目をやった。


「入ってこい。ユルベール」


 それに呼応して牢に入ってきたのは、虹色の瞳を持つ少女だった。純白の髪を後ろで1つにくくり、不安そうな面持ちでこちらを見つめている。──これは、と目を見開いた。

 8月25日。

 俺がタイムスリップをするときに出会った、不思議な力を持つ少女……なのか?


「気付いたか。──間違っていたのなら│やり直せ《・・・・》ということだ」

「なんで、この子がここに。というか世世さん、タイムスリップのことを……?」

「フン。│この・・・、ではない。よく見ろ。髪型が違うだろう」

「分かんねーよそんなの! ……というか、出来るのか。タイムスリップが。もう1回」


 世世さんはすぐには答えなかった。

 俺にかたくなに弱みを見せてこなかった世世さんが、肩で息をしている。──体はとっくに限界を超えているのだろう。きっと、もっと前から。

 思えば、虹素不耐症を持つ人間は、一生虹素レスの病室に閉じこもったまま過ごすのも珍しくない話だ。そんな中で世世さんは、投薬と対症療法で体を騙しつつ7年も俺たちを育ててきた。破虹師として前線にこそ出ていないものの、技術課・医療課という虹素を扱う部署で働いていた。

 その苦しみたるや、俺に想像できるものではない。


「タイムスリップが出来るかどうかは、この子に聞いてみないと分からん。ワタシは連れてきただけだ。──賭け、という訳だな」


 俺はユルベールと呼ばれた少女を見た。

 あの日俺にキスをかましてきた幼女は笑顔が印象的だったが、ユルベールはこちらの心を見透かしてくるような、静かな瞳を持っている。

 薄く桜色に色付いた唇が、開いた。


「……あなたには、覚悟がある? │あの・・・を救うための」


 あの子。

 依呂葉のことか。──俺は大きく息を吸う。


「次こそは間違えない。依呂葉も、千賀も、山田さんも、──世世さんも死なせたり……しない」


 言い切った瞬間、左目がカッと熱くなった。凍えていた四肢に熱が巡り、右目の視界も戻り、欠けていた核すら充実していく感覚がある。

 こんなの虹化体ですらありえない、と戸惑う俺に、世世さんは堪えきれないというように吹き出してみせた。


「──良かったな慧央。お前の目、赤く戻っているぞ。いや良かった。ヘタレたままで過去に戻られてもすぐに死んで終わりだ」

「赤く、って。やっぱりこれって何かの天恵……なのか?」

「慧央さん」


 ユルベールがぐいと俺の手を引っ張り、世世さんを見ていた俺の視線が彼女に固定される。


「……正直、あの子のことを思い出していないあなたに力を貸すのは……嫌。でも、あなたを信じたシエルお姉様を信じる」

「あの子……って、依呂葉じゃないのか」


 ユルベールは目をきつく瞑り、俺の問いには答えない。


「私たちの願いは一つだけ。あの子を救ってくれる人を、ただ探しているだけなの。……じゃあ、よく聞いて」


 ──そう言うと、ゆるりと開かれたユルベールの瞳が輝き始める。


「私が時を遡れるのは、7日間だけ。だからあなたが目覚めたらそこは7月14日ということになる。そこから今日までの間で今の誓いを破ることがあれば……あなたは、時の牢獄に閉じ込められることになるわ。シエルお姉様と違って私は甘くない。──タイムスリップは、あなたたち人間の都合いい道具じゃなくて、むしろ私たちがあなた達の時間を利用するための、道具なんだから」


 道具。

 ユルベールの握る力が強くなる。

 ぱき、と視界の端にヒビが入って、まるでこの世界が紙細工で出来たおもちゃみたいに白く砕けていく。


 あの日と同じだ。


 欠けていく視界の中で、苦しそうな世世さんがもう一度顔を上げた。


「……慧央」

「世世さんは、どうなるんだ」

「心配するな。七日前にも元気なワタシがいるからな。……最後にひとつ言っておくが──7月14日に戻ったお前は、前回と同じ……少女の入った水槽のある部屋で目覚める。弓手が来る前に逃げろ。また捕まってズタボロにされたくなければな」


 ユルベールは世世さんを睨んだ。余計なことを、とでも言わんばかりの顔だ。


「……分かった。ありがとう。──行ってくる」


 世世さんは小さく頷き、視界が真っ白に染められて────俺の意識も遠く離れていった。

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虹を破る者 六亜カロカ @hakareen8

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