第12話 犯人を終え!
ユージンは怒るのが苦手である。なんだか怒る前に色々考え込んでしまうのだ。
この人はどうしてこんなことをしたんだろう、とか。自分にも悪いところあったのかな、とか。考えている間に、ついつい感情のピークを逃してしまう。ユフィにはボンヤリするなと叱られるが、性分なので仕方がない。
「だけど村長、これは立派な横領ですよ。せめて宿泊にかかった費用は、みんなで分けないと」
村中総出で異世界人の宿を用意しているのだ。出発まで何日留まるかは分からないが、日がかさめば食費だって馬鹿にならない。
「なに呑気に言ってんだユージン、まずはオマエの畑の修繕費だろうが。たっく、よくもまあ金の心配はするななんて言えたもんだ」
ユフィの村長を見る目は辛辣だ。だけど問題はそれだけじゃない。
要するに報奨金目当ての誰かが、異世界人を攫ったってことだ。王都に送り届ける目的は同じでも、人攫いをやってのけるような奴だ。身の安全が保証されるわけではない。
特にこの勇者という文言。これが異世界人全員を示しているのか、それとも彼らの中の特定の人物(今の所紅が最有力らしいが、ユージンは未だに懐疑的である。というか違っていて欲しい)が勇者なのかは分からない。
だが後者の場合、犯人が攫った異世界人を勇者ではないと判断したら、最悪その場で殺されてしまう可能性もある。一刻も早く見つけ出さないと。
ミレーユ婆さんは何か言いたげな村長を押し退けた。
「あんたの処遇は後だよバラガス。ユージン、どう見る?」
「とにかく相手を知らないといけない。賞金稼ぎや荒くれ冒険者ならギリギリセーフ。盗賊だったら最悪だ」
「それで? まずはなにから手をつける」
「村中に伝えて、再度の襲撃を警戒。それから現場を見たい。ユフィ、ついて来てくれ」
「あいよ相棒」
ユフィは自分の右目を指差して応えた。こういう時、いちいち説明しなくとも伝わるのが、腐れ縁の良いところだ。ユージンがユフィを誘ったのは、幼馴染のギフトがこういう時に役立つ類のものだからである。
ユフィにギフトがあることが分かったのは、一年ほど前のことだ。
村長には珍品収集の趣味がある。そのせいで定期的に訪れるキャラバン以外にも、時たま得体の知れない行商人が村に来ることがある。
わざわざ呼び寄せる場合もあるし、カモの噂を聞いて寄ってくる場合もあるのだが、その日は後者だった。
無精髭に手入れのされていない長髪。見るからに怪しい風態の男は、道端に商品を並べて居座った。それはどれも、ユージンの目にはガラクタにしか見えない物だったが、村長は前のめりになってセールストークに夢中になっていたっけ。
「さすがお目が高い。こちらは先先代の国王のメイドが給仕室で使用していたとされる水差しです」
「おお、では王城にあった物ということですな」
「そしてこちらは、あの騎士団長、王の盾のグレン様が幼少期に剣術訓練で使っていたカカシです!」
「ではこの太刀筋は……素晴らしい、全部くれ!」
村長は、王都の歴史や流行に弱い。
だけどよく考えて欲しい。先先代の国王が使っていたのならばともかく(それでも要らないけれど)、その給仕係の使っていた物である。要するに。
「それもう、ただの召使いのお古ですって。だいたいカカシなんてなんに使うんですか」
話が本当だとしても価値のない物に、べらぼうな値札が付いているのだ。ユージンは村長を必死で止めたが、すでにその目は完全に曇っていた。
「貧乏人にはわからんのだユージン。これは目利きの世界の話だからな」
そこでさすがに破産すると思ったのか、居合わせたユフィが水差しを指差して言った。
「それ、100ガロン均一で売ってるヤツだろ」
「失敬な、なんだ小娘!」
「そっちのカカシは初めから傷んでるように作ってある。その剣はミスリルどころか鋼ですらねえメッキだ。つーかあんたの持ち込んだもん全部ゴミじゃん」
最初は意気込んで反論していた商人も、言い当て得られた品が10を超えたあたりで逃げるように店を畳んだ。
「鑑定」のギフト。
ユニークギフトではないが、かなり貴重なギフトだ。その才能を活かせば、王城御用達の商人になることだって夢じゃない。
ちなみにその男を捕まえようとユフィが言い出して、その晩一悶着あったのは、今だに思い出したくない嫌な記憶である。
今回も、ユフィの目でしか見えない発見があるだろう。ユージンの返事に、ミレーユ婆さんの口の端が上がる。どうやら答えに納得したらしい。
「ユージン、この件はあんたが仕切りな」
「勘弁してよ。俺は足になるからさ、考えるのは婆さんで」
「甘ったれんじゃないよ。あたしゃあ腰が痛いんだ。それに」
ミレーユ婆さんはそこで言葉を切ると、思いのほか真剣な顔つきで言った。
「そろそろあんたも自分を知らなきゃあね」
異世界転生?された方はたまったもんじゃありません 糺乃 樹来 @Fhi763
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