第9話
いちおう。
一応、念のため、遅刻ギリギリまで待ったけど、霞美は駅に来なかった。
教室にもいなくて、結局一日休みだった。
正直ホッとしてた。あたしも休もうかと思ってたし。結局二徹だし。波音がさ、部活休んでまで引っ張るから来ただけだし。……合わせる顔、ないし。
「いつものねーちゃんだったら、心配して家に乗り込んでるところなのに」
HRが終われば帰るだけという、何をするにも中途半端なこの時間帯にもクラスに来てくれる波音。
「ありがたいけどさ、今日は家で寝かせてほしかった……」
「こういうのは長引かせない方がいいんだよ」
「でも、どんな顔して会えばいいか、分かんないし……。霞美ん家、知らないし……。なんて謝ったら……」
「ねーちゃんの偽物疑惑が急浮上中だよ……。白隈さんの事情は知らなかったんだから、ちゃんと話せば分かってくれるって」
「そうかな……。またぶん殴られないかな……」
「……」
「なんか言えよ……」
沈黙に合わせたように、波音のポケットがぶるぶる動いた。スマホでお電話だとさ。
ちょっと離れて話してる、その背中で思い出す。あたしも欲しい、とか考えてたんだっけか。ていうか……、あー、忘れてるわ霞美の番号。ちょっとショックが大きすぎてさ、鋼音ちゃんのおつむから転がり落ちちゃったみたい。
「まぁ、もう必要ないのか……」
とか口に出したら、うるっと来ちゃう。なんだなんだ、あたしはこんなに弱い女だったっけ。ぐしぐし目元をこすってたら、波音が戻ってきた。
「いま、執事さんから連絡があって」
「執事さん」
「白隈さん家の」
だからどうしてテメェはあたしより霞美のこと知ってんだよこんちくしょう。誰だよ執事さんて。まさか家にお呼ばれとかしてんじゃ
「白隈さん、キャンプ終わってから家にも帰ってないって。ねーちゃん何か知らない?」
がたん。
椅子が倒れた。一瞬で頭が澄んだ。
傷つけたとか。合わせる顔がないとか、なんて謝ればいいかとか。そういうのぜんぶ吹っ飛んだ。直感だった。
霞美が泣いてる。
それだけは分かるし、それだけが分かればいい。それ以外はどうだっていい、例えばあたしの涙とか。
「探してくる」
「今から? どこに?」
「山」
「広っ⁉」
「まだ山ん中にいるなら、あたししか探せない」
「いや危ないって! 日が暮れるまでもう少しあるから、とりあえず他の場所を調べてさ、駄目だったら明日にでも」
「波音」
考えろって、誰が教えてくれたんだ。
「あんたの彼女だったら、どうする」
波音の呼吸が一瞬、とまる。その顔見ると、なんか安心して。
「心配すんな。ぜったい戻るから。ねーちゃんを信じろ」
久しぶりに、自然と笑顔が作れた。
まったく、本当にこいつはさ、あたしのかわいい波音くんなのか。いい男になりやがって。彼女ちゃん傷つけんなよ、お姉ちゃんみたいにさ。
「じゃ、行ってくる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます