第7話
からだの一部がすこしだけ触れて、時間が止まって、そして離れる。
はじめての恋、はじめてのキス。なんかいい匂いがしたけど、今日は同じシャンプー使ったはずのに。不思議だ。
我慢できなかった……、とはちがくて、なんだろう、そうするのが自然だった。とっても綺麗だったから。笑ってるのに辛そうで、どうしてだか痛そうで、そういう何かを……、あたしにも分けてほしかったから。
でも、やりすぎた、かな。とも思ったり。
まぁほら、ここは笑ってごまかして、あたしが殴られて終わりだよ。いつも通りいつも通り。あ、番号だけは死守しなきゃな。頭から飛んでいかないように。
よっしゃ準備OK、じゃあ適当に軽口叩いてー鉄拳制裁受けてー、
なんて手はずを整えてたら、
霞美は唇に両手を当てて、凄味のある両目をまあるく開いて、驚いていた。
驚いて……、泣い、て?
泣き顔をそむけるように身体をひねって、あたしは一瞬遅れて来るであろう衝撃を覚悟したけど、逆だった。霞美は走って離れていった。小さな背中が逃げていって、暗い山桜の森に隠れて消えた。
取り残されたあたしは、一ヶ月前とは別の「?」を頭に浮かべて、立ち尽くすことしかできなかった。
*
翌日。
キャンプの二日目、そこに霞美の姿はなかった。あのまま帰っちゃったのかな。
あたしは柄にもなくうねうね悩んで、布団に戻ってもなかなか寝つけず、心地良い睡魔がやってきた時にはもう起床時間だった。昨日の出来事で脳が疲れて、野外活動どころじゃないぜ……。
木登り体験してる同級生たちを尻目に、波音と木陰に座ってうずくまる。眠い、でもそれ以上に霞美が気になる。
「やっぱ、ちゅー……。しちゃったのが、悪かったのかな……。動物とは昔からぶちゅぶちゅやってたからさ、感覚がおかしいのかな……。住む世界が違うってやつ……」
「うぅん……。女の子のことだから、僕にはなんとも」
「女ったらしのくせに……」
「僕はいつからプレイボーイキャラで定着したの」
キスされたのが、ショックだったとして……。それで、泣くかなぁ。あの霞美が。ブチ切れてタコ殴りにされるなら腑に落ちるけど。それにあの場面ならさ。するじゃん、ふつう。
「霞美がさ、殺気を出さずに話してさ、笑ってくれたのが嬉しかったんだよなぁ……。で、自然と……」
「今更だけど、難儀すぎる恋愛してるよね……。うーん……」
「……波音」
「ん?」
「なんか知ってるなら言いな」
波音の身体がぎくりと動く。
あのね、何年あんたのねーちゃんしてると思ってんだ。あんたが言いよどむなんて、隠し事してる時しかないんだよ。
波音はちょっともたついた後、腹を決めたようで、足をあぐらに組み直した。
「……伝えようかどうか、迷ってたんだけど」
「おう」
「調べてもらったんだよ。例の女の子に」
「例の……」
なんだっけ。
「彼女の友達の」
「あー……、世界征服の?」
「うん。その人が言うにはさ、
「白隈さんって、
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