第4話
高校デビュー月間は、そんなこんなで過ぎていった。いやーこの一ヶ月で大分タフになったなあたし。
てなわけで、
「ゴールデンウィークだよこの野郎!」
「どうしたのねーちゃん。せっかくの大型連休を親の敵みたいに」
「だって霞美と会えないじゃん!」
愛しの彼女がいない休日なんてお呼びじゃないね。
「約束してないの? 遊びに行こうとか」
「もちろん誘ったさ! 誘ったけどね、生ゴミに湧いたコバエを見る表情で暴言を吐かれて殴られちゃった☆」
「てへっ、で済む案件じゃないよね。そろそろほんとに心配になってきたよ?」
「ま、あたしもこのままじゃーイカンとはおもう。そこでだ、この大型連休ラストに待つ、逆転の大チャンスを活かすつもりだ」
我らが田川高等学校には、120人くらいの生徒が通っている。
その中には、山と空と畑しかない青村と違って、比較的町の方で育ったモヤシっ子たちもいるわけで。そんな彼ら彼女らに、自然の営みを体験してもらおうという催しがね、我が高校には伝統としてあるのだよ。って先生が言ってたらしいよ。あたしは寝てたから、波音から聞いたんだけどさ。
で、そのキャンプにだ。
毎年GW最終日に催されるキャンプにだ!
もちろん、あたしと霞美も参加するわけだ! この意味が分かるか!
「一泊二日で、霞美と一つ屋根の下って塩梅だぁ!」
「僕をはじめとする男もクラスメイトもいるけどね?」
「眼中ねぇな!」
「だよね。がんばってね」
「おう!」
明日からの!
二日間で!
白隈霞美と、仲良くなるぞ!
*
源ばあの森。
通学に使ってる青駅の裏山の、でっかい自然体験施設だ。あたしから言わせれば、自然体験なんてふつうに野山で遊べばいいじゃんって感じなんだけど。まー常人にゃ危ないか。熊出るし。
荷物を抱えたあたしと波音がえっちらおっちら向かっていると、途中で霞美の姿をみつけて、
「おはよう、白隈さん」
「おはよう霞美!」
「…………おはようございます」
お風呂場で頑固な黒カビを発見した時の素敵な表情で迎えてくれた。いつもの地味なセーラー服じゃなく、あたしと同じ緑ジャージだ。どっちみち地味だけど、霞美が着てれば抜群にかわいい。住めば都ってね。ちがうか。
少しでも霞美の近くにいたいと思いつつ、あえて波音を挟んで歩く。今日は大事な日だから、序盤でヒットポイント削るわけにゃいかんのさ。
このイベントで、一気に距離を縮めるんだからね!
「『源ばあの森』っていう名前はね、山姥が天狗に仕返ししようとした言い伝えから来てるんだよ!」
「……? 天狗と仲直りした山姥が心を入れ替えて、人間に恩返ししたんじゃないですか?」
「そうなの? なんで知ってんの?」
「波音くんに教えてもらいました」
「こおおおんの女ったらしがぁ……‼」
「なにを実の弟に嫉妬してるんですか痛々しい」
「だめだからね、こいつ彼女いるからね‼」
「あなたが義理の姉になるなんて絶対に御免です」
「ふぅ一安心、ってこの胸に沸き上がる複雑な感情はなに⁉」
「楽しそうだね二人とも」
波音の向こうで、ごう、と禍々しい気が膨れ上がったけど、弟の断末魔は聞こえてこない。あたしに鉄拳が飛んでくることもない。
「ふっ、弟バリアが利いてるぜ……」
「せめて心に秘めておこうよ」
「最低です」
「言葉の暴力が防げない⁉」
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