今日、休みます

伊嵜 寝眼

第1話

「すいません、今日休みます」


「またか?」

「はい、本当にすいません……体調不良で」

「全く仕方ないな」


「また定着が悪いのか」

上司は問うた。

「はい……」

部下は泣きそうな声で答える。

「何体目だっけ?」

「五体目です……」

「違う義体師のところ行った方がいいんじゃないの?」

上司はぶっきらぼうな、それでいて心配そうな口調で言った。

「でもこんな破格の値段でやってくれるところなんてここくらいしかないんですよ」

「闇市場の不良品が流れてきてるだけだ。ヤブだよ」

上司は少し乱暴に返した。

「そう言われましても……」

「事故っても慰謝料貰えないと大変だな。そろそろ上も怪しみ始めてる。俺もいつまで隠しておけるか分からん」

「再就職大変だったんですけど……」

絞り出すような声を聞いて上司は一呼吸置くと、小さい声で言った。


「俺の親戚にIT関連の仕事してる奴がいる。何らかの理由で身体を喪った人達や捨てた人達を雇ってサーバー上で働かせてる。良ければ紹介しなくもないが……」

「どうして少し乗り気じゃないんですか?」

「それは行きたいってことか?最終手段だと思っていたからあまり勧めたくなかったんだが」

「それでも良いんです。働きたいんです。お金が欲しいんです」

必死そうな声に、上司は気圧されつつあった。

「でもお金を使うなら身体が要るだろ」

「身体が要るのなんて両親の介護くらいですけど兄がやってくれてますし。電子世界なら衣食住から解放されますし娯楽だって溢れてますよ」

そう来るか、と上司は電話の向こうで頭を搔いた。

「もっと自由に生きたいんです」

「……分かった」

上司はしぶしぶ会社のURLと連絡先を教えた。詳しいことはそいつに聞けと言った。

「ありがとうございます!これで私も部長に謝罪の連絡をする必要も無いですね。煩わしい部下で、すいません」

嬉しそうな部下の声を聞いて、心は重く沈んだ。

「退職届したためたので、お送りしますね。それでは」

「じゃあな」

上司は電話を切ると、開いた脚に肘を置いてその間に顔を埋め、深く息を吐いた。

上司の頭の中に様々な思いが浮かんでは消えた。部下の堅苦しかった新入り時代。吸収が早く、ムードメーカーで、同期の中で飛び抜けて有能だった。将来を期待されていた。それが……。

本当にこいつのために俺はなれたのだろうか。


俺は正しかったのだろうか……。

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今日、休みます 伊嵜 寝眼 @isakisleepyeye

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