自我工作

店内はざわついている。一度の入店音に3回の「いらっしゃいませ」が響く。ついでに子供の声も。

店内のざわめきは嫌いではない。しかし、YouTubeで上がっているような録音はあまり聞かない。

それほど興味がないというのもあるが、何よりこのカフェの雑音はリアルタイムでなくてはいけない。私はそう感じている。

話は打って変わって。「普通」について考えてみる。私の思考はいつだってやかましくて、集中力がないので、本を手に持ったまま、「普通」について思考を巡らせている。

普通ってなんだ?というのは特に思春期の少年はこのことについて考えることが多いと思う。

私の考えはこうだ。

「普通とは個人のものさしに過ぎず、しかもそれはある一側面のことを指しているにすぎない」

普通と言っても、時代や国によっても様々だ。いつの時代にも普通だなんて事はそうそうない。

殺人鬼でさえも、戦争中では英雄になり得るのだから。

時代と国によらずとも、同じ場所時間であっても、例え過ごした環境が同じ人間同士であっても、その人物が何に影響されるかまでは同じにできない。

兄弟であっても、いやむしろ兄弟だからこそ、その人物の普通じゃないところは見えてくる。

そもそも、完璧に普通な人間が普通ではないと感じる。

身長体重が平均で友人もそこそこおり、顔も所謂フツメンの男のでさえも、友達も居ないチビデブにはやはり輝いて見えるものである。

「普通とは個人のものさしに過ぎず、しかもそれはある一側面のことを指しているにすぎない」っともっともらしく、私はカフェのウッドデーブルに肘を付きながら考えるのである。

「しかし、この考え方はひょっとして普通の考え方ではないか?」

私は独り言を呟いてみる。正解は誰にもわからない。しかし、もしかしたら私の独り言を聞いて、こちらを一瞥した彼女は、何か知っていたかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もう何も言わないで Lie街 @keionrenmaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ