ご利益を求めて
みふね
✾
半信半疑だった。
UFOも幽霊も信じない私でも、神頼みはしょっちゅうしている。受験のときも学問の神様がいる神社に訪れて合格祈願鉛筆を買ったことはいい思い出だ。見事に落ちたことも今ではいい思い出だ。そのお陰で気の合う友人に出会うことができたのだから。
この夏実家へ帰省することをその友人に話した。すると彼は道中におすすめの神社があると得意げに話した。なんでもご利益の効果が凄いらしい。友人は「行ってからのお楽しみ」とだけ言って詳しい効果は話さなかったが、そこまで言われると気になってしまい、今、そこにいる。
鬱蒼とした森の中に一本の獣道が伸びていた。この先に必ずあると友人の描いた地図には記されている。ただそんな道はスマホの地図にものってなかったし、神社の存在すら怪しまれた。よくよく考えてみれば彼の話も嘘くさかった。
しかし、だからこそ、内なる好奇心が私を森の奥深くへと誘っていくのであった。
森に入って早速私は酷く後悔した。夏だから半袖で立ち入ってしまったわけだがここは森だ。当然ながら無数の虫が飛び交っている。
耳元で不快な音を響かせたり、衣服にまとわりついたりと、彼らの行動は私をいらつせた。とは言え今更戻るのも癪なので更に奥へと進んでいった。それはご利益を求める一途な想い故でもあった。
一時間、私は虫どもの総攻撃を喰らいつつ、ついにそれとおぼしき建物に辿り着いた。
簡素な鳥居に苔むした拝殿。それは思っていた以上に小さく、こんなものの為にここまで来たのかと思うと、死にたくなるような虚しさに襲われた。ただ、ご利益に見た目は関係ない、と信じたかった。私は取り敢えず財布の口を広げ、小銭を選ぶ。十円は遠縁になると聞いたことがある。一円は少なすぎるだろうか。
じゃあ……。私は黒ずんだ五円玉を一枚取り出した。
「良いご縁がありますように……」
元の道を、虫に刺されないように全力で駆けて戻り、三十分足らずで森の入り口に帰ってきた。お陰で帰りは一切虫の攻撃にさらされる心配はなかった。
呼吸を整えつつ、暫く呆然としていた。
体中が行きの虫刺され故にチクチクと痛んだ。そこに汗が滲みてなおさら痛い。セミの声がそんな私を嘲るように盛んに鳴いた。
友人の話によると、参拝を終えすぐに効果が出るという。
さて、何が起こるというのか。
そうだ。その効果のためだけにこれだけの労力を費やしたのだ。それに見合うだけのご利益はいったいなんなのだろうか。私はぜえぜえと息を切らし、胸を高鳴らせた。
しかし、いくら待てど暮らせど何も起きなかった。
私は憤慨して友人に電話をかけた。
「何も起きないじゃないか!! いったい何の神様なんだ?」
友人は、言った。
「強いて言うなら虫除けの神様かな」
なるほど。だから私は帰り道では全く虫に刺されなかったのか!! 私は生まれて初めて神様を信じようと思った。心を躍らせ、飛び跳ねるように実家へ走った。心地よい風が吹いた。滴る汗が気持ちよかった。
実家に着き、入学式以来久々に見る母に今回の、奇跡のような体験を鼻息荒く語った。
「…………それでね、帰りは全くもって虫に刺されなかったんだよ。ね、凄いでしょ!! 神様はやっぱりいたんだ!!」
すると母はぽつりと呟いた。
「行かなきゃいいだけの話じゃん」
「え…………」
全身の傷が、痛みだした。
ご利益を求めて みふね @sarugamori39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
本好きは、かく語りき。/風雅ありす@『宝石獣』カクコン参加中💎
★20 エッセイ・ノンフィクション 連載中 176話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます