第10話

 教室の外を、ボーッと見つめている。夏休みが過ぎたとはいえ、まだ太陽はせかせかと仕事をしているようだ。窓を開けると、熱気が中へ入り込んでくる。

 だが、少し冷房が効きすぎだ。誰だかわからないが、温度をかなり下げているのだろう。これでは風邪を引きそうだ。

 外にいれば鬱陶しい夏の熱気も、寒い室内から感じれば話は別だ。

 ほっと息を吐き、力を抜いた。すると、後ろからノートで叩かれた。


「何で窓開けてるの? クーラーしてる意味ないよ」


「寒すぎるだろ。天町さんは寒くないの?」


「それなら温度を上げればいいでしょ? 私が上げてくるよ。もう凍えそうでガタガタなりそうだよ〜」


 そう言って、入口近くにあるエアコンのボタンをいじりに行った。

 前よりも、天町さんの表情は自然体だ。今日も元気よく周りに挨拶して、友達と楽しそうに話していた。

 他の人から見れば、なんでもないただの日常が広がっているだけだ。でも、これが俺の非日常なのだった。

 夏休みが明けて、天町さんはいつも通りに学校に来るようになった。いつもより楽しそうな様子で。俺は、小説を書くのに並行して、天町さんと歌を作って遊んでいる。

 そして、愛風さん達はというと、最近知名度が上がってきたようで、ちらと名前の聞いたことのあるような、有名なライブハウスでライブをしているそうだ。そして、様々な都道府県に遠征してライブをしたりと、勉強そっちのけなレベルでバンド活動をしているみたいだ。


「これで涼しくなって欲しいな〜。あ、そうだ、今度のふでばこのライブの前座で誘われたんだから行こう!」


「……えぇ」


 そんな大きいところではちょっと引けるな。だが、天町さんの勢いは止められそうにない。

 

「そうなったら、新しい歌作らないと! うわー、楽しみ」


 天町さんと音楽は楽しい。部活に入らなくとも、熱中出来るものがあれば、ここまで充実するものなのだ。別に、底なしに明るくて楽しいわけではない。寧ろ、夏休みの出来事もあって、陰鬱とした思い出が真っ先に思い浮かぶ。そこで終わったと思っていた。いや、現に終わっていたのだ。道は間違えなくそこで途絶えていた。

 だが、道がなくとも、進めない訳では無い。今までだって、人は道を作って世界を広げてきたのだ。あてがなくとも、その先にあるものを信じて。そして、いつか必ず辿り着ける。

 

 これは、終わりから始まる物語である。

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きみの音楽になりたい いちぞう @baseballtyuunibyou

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