第15話
「ウエア、いつまでケイ様を独り占めしていますの。欲張りがすぎるんじゃありませんこと。そうですわよね、アメニティ」
「そうだ、クックの言う通りだ。ケイ殿、ウエアのチートスキルもいいだろうけど、あたしたちのチートスキルもなかなかのものだと思うぞ」
クックとアメニティが口をそろえてウエアに抗議してきた。さっきはゲームの方向性で険悪な雰囲気だったのに、ウエアという共通の敵を見つけて団結したみたいだ。
で、まずはクックが僕に抱きしめられていたウエアを突き飛ばした。そして、ウエアに代わって僕に抱きしめられる形になった。
「ケイ様、わたくし、この“コントローラー?”というものの使い方がよくわかりませんわ。どうかわたくしを抱きしめたままいっしょに操作してくださいまし」
「え、でも、クックは前回僕の後ろからコントローラーを操作して、ハルのコンビニで食中毒を発生させたんじゃなかったけ……」
いかにも魔法文明まっさかりの異世界から召喚された、ゲームのやり方がよくわからない魔法少女のようなことを言うクックだった。僕はそんなクックに『それはおかしい』と指摘したものの、クックは気にもとめなかった。
「ケイ様、前回のコンビニ経営シミュレーションゲームのことは、わたくしケイ様がリセットボタンを押されてしまったので何にも覚えておりませんわ」
「コンビニ経営シミュレーションゲームをやったことは覚えているじゃあないか……」
僕のツッコミをクックはもう聞く気もないようだった。
「ほら、ケイ様。どうです、わたくしのチートスキル。きついきついトレーニングのまっただ中で、あのいじめっこにおにぎりを食べさせるチートですわ。見てくださいまし。あのいじめっこが泣きべそをかきながら、おにぎりをもぐもぐしている姿を」
クックが言う通りだ。ついさっきまでノックをさせられていたハルが、おにぎりを顔中汗と涙でグシャグシャにしながら無理やり口に入れている。甲子園常連校の選手が毎回の食事でどんぶり飯三杯をノルマにさせられているなんて話を聞いたことあるけど、見ているだけで吐きそうになるほどきついと言うことがわかる。
「ケイ様、いかがですか、食事をつかさどるわたくしにかかれば、あのいじめっこを食事でむごたらしくさせることなんて造作もありませんわ。ほめてくださいまし」
「あ、ああ、すごいね、クック。吐きそうなほど厳しい練習をさせられた直後に、強制おにぎり食事イベントなんて、ハルにふさわしいゲーム展開だよ」
そうやって僕がクックをほめて頭をなでた。そしたら、クックはご満悦だ。
「お褒めにあずかり光栄ですわ、ケイ様」
ほおを赤くして照れているクックだった。だけど、そのクックを突き飛ばして今度はアメニティが僕に抱きしめられる位置にスタンバイした。
「ケイ殿。あたしもこの“コントローラー?”と言うものの扱い方がよくわからないんだ。ケイ殿があたしの後ろから操作してくれるとうれしいです」
アメニティも前回のコンビニ経営シミュレーションゲームの時に、ハルのコンビニの周りにテーマパークおったてておおいに楽しんでいたような……まあいいや。
「あたしのチートスキルとケイ殿の操作の腕前があれば、あんないじめっこギッタギタだよ」
そう言ったアメニティが、僕に握られているコントローラーを操作するとゲーム画面に『気温三十八度。湿度八十パーセント』なんて表記が出てきた。
「どうだい、ケイ殿。住環境をつかさどるあたしにかかれば、あのいじめっこのいるゲーム空間の気象条件なんてどうにでもできるんだ。すごいだろう。見ろよ、あのいじめっこ。太陽の日差しに照りつけられて、いまにも溶けてしまいそうになっているよ。でも、この部屋は……」
アメニティがそう言うと、呪文の力で前回と同じように氷が天井にできて僕の部屋がすこぶる快適になった。クーラーの乾いた冷風とは段違いの気持ち良さだ。
たしかに。ハルが直射日光を浴びせつけられている姿を、この涼しい部屋で眺めていると言うのはすこぶる気分がいい。
「さあ、ケイ殿。あのいじめっこにノックをお見舞いしてやるんだ」
アメニティにそう言われて、僕は照準をハルに合わせて野球ボールを打ち込んでいった。
カキーン! カキーン! カキーン!
もはやハルにはボールから逃げ回る気力もないみたいだ。そんなハルにひきつづきボールを打ち込んでいく僕を、アメニティが応援している。
「すばらしいよ。最高だよ。ケイ殿のゲームの腕前はすごいよ。あんなに的確にボールを打ち込むことができるんだもの」
そうやってしばらくハルにノックをたたき込んでいたら、突然ハルがピクリとも動かなくなった。そして、ハルにコーチが駆け寄っていったと思ったらこんなメッセージが表示された。
『このくらいで死ぬなんて情けないやつだ。系列病院で事故死の診断させないといかん』
高校球児が練習に打ち込んだ結果の不幸な事故。マスコミが美談として取り上げてくれるだろう。
僕は、思わずアメニティと顔を見合わせた。クックとウエアも困った表情をしている。
そして、僕はリセットボタンを押した。
テレビから出てきたゲームの女の子が僕の部屋に居座るいじめっこをゲームの世界に追放してくれて、その女の子があれこれ僕の世話を焼いてくれる @rakugohanakosan
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