第14話

 ウエアに言われて僕はコントローラーを差し出した。


「ありがとうございます、ケイ陛下。それではごゆるりと鑑賞なさってくださいね」


 ウエアはそう言ってコントローラーを操作しだした。どんなバイオレンスが繰り広げられるんだろう。そう思っていたけど、画面上のハルになにか変化が起こるわけどもない。コーチに引っ張られていった後、竹刀でばかすかなぐられているだけだ。これは通常のゲームシステムっぽいけど……


「ああ、もう、なにこれ、ちっともうまくいかない。この世界の入力デバイスはどうなってるの。ねえ、ケイ陛下。ちょっと手伝ってくださらない」


 ああそうか、異世界から来たウエアはコントローラーの使い方がよくわからないのか。魔法の世界の住人ならそんなこともあるだろうな。


「うん、いいよ。そのコントローラーを貸してごらん」


 僕がウエアのかわりにコントローラーを操作しようと思ったけれど、ウエアは首を左右に振った。


「それではダメなんですの、ケイ陛下。わらわが入力デバイスを握っていないと、チートスキルは発揮できないんですの」

「そうなんだ。でも、ウエアはコントローラーの操作方法がよくわからないんだろう。それは困ったなあ」


 僕が頭を悩ませていると、ウエアがこんなことを提案してきた。


「ケイ陛下、わらわの後ろからこの入力デバイスを操作してくださらない。わらわがこの入力デバイスを握ったままケイ陛下が操作するには、それしか方法がないと思うのですが……」

「僕がウエアの後ろからコントローラーを握るの?」


 僕は思わず大声をあげた。前回は僕の後ろからクックとアメニティがコントローラーを操作して、その密着具合にどきどきした。だけど今回は前後が逆になるみたいだ。前回より今回の方が体勢的にまずい気がする。


「ねえ、早くしてくださらない、ケイ陛下」


 ウエアが妙に色っぽく僕に頼んでくる。こうまで頼み込まれたらやるしかないな。

 

「ええと、こんな感じでいいのかな、ウエア」


 僕が後ろからウエアに抱きつきながら、ウエアが握っているコントローラーを握り締めながら質問するとウエアはこう返事してくる。


「それでは、ケイ陛下がこの入力デバイスを操作しにくいんじゃありませんこと。もっとこう、ケイ陛下がわらわに密着してくださらないと、いろいろ操作しにくんじゃあありませんこと」

「そ、そうだね。これじゃあウエアが持っているコントローラーが僕から遠すぎて操作しにくいな。それじゃあウエア、もう少し密着するよ」


 ウエアに言われて、僕はさらにウエアの後ろから体を密着させることにした。テレビからは、ハルの悲鳴が『ぎゃあ』とか『ぶはっ』とか聞こえてくるけど正直どうでもいい。


「いやですわ、ケイ陛下。どこを触っていますの。わらわの握っている入力デバイスを操作してくださいまし」

「ああ、ごめんごめん。なにしろ人の後ろからコントローラーを操作するのは初めてだから」


 あいかわらずハルの悲鳴がテレビから出力されているけど、そんなものは気にしないで……


「あ、それでよろしいんですわ。ケイ陛下。さすがですわ。これでケイ陛下のゲーム操作テクニックとわらわのチートスキルが合わさって無敵になりましたわ」

「そ、そうなの。それはよかった」


 ウエアがそう言ったので画面に映っているハルを見たら、ハルの手首や足首にズッシリとした重りがつけられている。格闘マンガでよくある修行用のウエイトだ。


「どうですか、ケイ陛下。わらわのコーディネートは。あの反逆者にふさわしい手かせ足かせだと思いませんか。なんて上品なブレスレットにアンクレットなんでしょう」

「いやあ、ウエアが服装担当だってことがよくわかったよ。ハルにあんなすてきなファッションをあてがうなんて、なみのセンスじゃできないよ」


 画面の中のハルは、いきなり手首足首に重りをつけられて何事かと思っている。さて、これからどんな特訓をさせようか。うさぎ跳びもいいし、走り込みもいいし、ううん、迷っちゃうなあ。


 僕がハルに何をさせるか決めかねていたら、画面に照準マークがあらわれた。なんだろうと思って。コントローラーのボタンを押してみた。


 カキン!


 バットでボールを打った打撃音がテレビからして、照準マークのところに野球ボールが飛んでいった。なあるほど。千本ノックか。こりゃあいいや。


 カキン! カキン! カキン!


 景気のいい効果音とともに、ハルの体に野球ボールが叩き込まれていく。手かせ足かせをつけられていたら避けることもままならないだろう。ハルがよたよたしながらどこかに逃げようとしていくが、僕はハルをのがすなんてヘマはせずに野球ボールをぶつけ続けていく。


「ケイ陛下、最高ですわ、その調子ですわ。もっとやっちゃってくださいまし」


 ウエアがそう僕に抱きつかれながら応援してくれる。実に気分がいい。



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